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プライム企業必見!IR通訳者に聞く海外投資家の実像:面談時のポイント 編

プライム企業必見!IR通訳者に聞く海外投資家の実像:面談時のポイント 編

海外IRに取り組みたいIR担当者にとって、最も気になるのは海外投資家の実像ではないでしょうか?
彼らは何を知りたがっているのか、どんな企業を好むのか。その情報がわかれば、海外投資家のために何をすれば良いのかが見えてきて、自社の海外IRを進める足掛かりができるでしょう。

本連載では海外投資家へのアプローチを進めたいIR担当者のために、100社以上の実績を持つIR通訳者、M.I.さんにお話を伺いました。
その経験から、リアルな海外投資家像をみなさまにお届けします。

インタビュー内容は大きく3つに分かれます。

  1. 海外投資家とのミーティングへの備え
  2. ミーティング実践におけるポイント
  3. 建設的な対話に踏み込むためのコツ

今回は『2. ミーティング実践におけるポイント』をテーマに、以下の情報をお届けします。

  • 海外投資家の出迎え方
  • 日本企業を信頼する瞬間
  • 海外投資家が怒りを感じること
  • 共通して海外投資家が興味を持つこと
  • 出身国ごとの違いと共通項
インタビュイープロフィール
M.I. - 通訳者。あらゆる分野の国際会議で各国の要人の通訳を担当。IR通訳においては100社を超える実績を持つ。ウォーレン・バフェット氏が来日された時の通訳も担当。

連載第1回:海外投資家とのミーティングへの備え 編はこちら

プライム企業必見!IR通訳者に聞く海外投資家の実像:ミーティングへの備え 編

海外投資家を出迎える際は、面談に集中できるよう配慮を

海外投資家がどのような人たちなのか、人物像が見えるエピソードをお伺いしたいです。どの企業も最初に投資家を迎え入れると思いますが、どんなことに留意するべきでしょうか?

海外投資家の対応として一番スマートなのは、入室したタイミングで飲み物を出すことだと思います。面談に入った後に飲み物をお出しされる企業も多いのですが、気が散っちゃいますし、そういう時に限って受付の方なんかが「コーヒーにしますか、紅茶にしますか? ホットとアイスは……」なんておっしゃるんです。

時間も限られている中の真剣勝負なので、面談に入る前、歓談をしているときに出してあげれば良い雰囲気づくりになると思います。入室したばかりのときは、投資家も大荷物をもってパソコンを開いて……と忙しくて、本題にすぐに入るのは難しいです。そこで「日本にいつ到着されたんですか?」なんて話しながら出してあげれば良いと思います。

誰でもできることだと思いますが、意外とできていない企業は多いんですよ。

折角のおもてなしがあだになるわけですね。

面白かったのは、高級なドリンクを販売している企業の面談に同席したときです。そのお店で出しているいろんな種類の飲み物からお選びください、というサービスをされていたんですが、メニューが素晴らしくて投資家の方が興奮しちゃって、10分かかっても何を飲むか選べなかったんです。

(笑)

「これは何? これは?」って聞きだしちゃって、1時間しか時間がないんだから、何でもいいから頼めばいいのに……って思いました。
時間がないときは好みを聞かず、一番いいものをさっとお出ししたほうがスマートだと思いますよ。コーヒーか紅茶かも聞かないで。

同じことはお土産にも言えますね。食品会社の中には自社の製品をきれいな袋に入れて渡されるようなところもあるんですけど、投資家がそればっかり気になっちゃって。IRのスイッチが外れちゃったみたいで、ツーリスト気分になっちゃいましたね。

ほかにも、テーブルの上に魅力的な食べ物が乗ってると気が散っちゃいます。食べ物の見せ方で上手だなと思ったのは、入り口付近の小さなテーブルに並べている会社ですね。入室のときに軽く見せながら、面談の最中、必要なときに見せてました。
逆に自社の製品を何も用意しないというのも問題で、商品の説明をしたいのにできない、ということも起こります。

海外投資家が日本企業を信頼する瞬間をエピソードで紹介

彼らの人物像が見えるエピソードはありますか?

ある会社が設立して間もないころのエピソードをお話しします。

「面白い会社がある」ということでアメリカ人・ヨーロッパ人8名ほどをお連れしたことがありました。そうしたら、その会社、外国人がたくさん来られるのは初めてだったのでびっくりしちゃって、経営トップの方が1名、明らかにおびえた様子でいらっしゃいました。ずっと通訳者の私の方を向いてしゃべっていましたね。
企業の方の声が小さくなるほどに、投資家の方々は身を乗り出して聞いていらっしゃいました。本当はコミュニケーションとして良くないことなので。

「どうなんですか、仕事の調子は?」

というお話になったら、こう言うんです。すごい小声で、

怖いほど……です……

こんなに小声なものですから、投資家の方々は気にしますよね。

「なんて言っている?」
「早く訳してくれ!」

ですから訳してお話ししました。

 

 

 

怖いほど売れてるんです……
って。

そうしたら皆さん、フリーズしちゃいまして(笑)
こういうこと、アメリカ人だったら堂々と言うんですよ。足を組んで威張って、笑いながら。真逆だからものすごいバッドニュースだと思ったんですね。どう反応していいかわからなかったみたいです。

投資家からの

「もう少し話してもらえるか?」

という質問に、

はい……

と、その企業の方は、とつ、とつ、と答え始めました。

私、この方は嘘をつくような人ではないなと思いました。
それを投資家の方々は真剣に聞いて、企業の方も笑わずに真面目にお話しされていました。

それが終わってバスに戻ったら、皆さん爆笑ですよ。
「あれは買いだ」「すぐに買おう」ってね。その企業の名前で歌なんか作って歌ってました。

アメリカ人と違って、日本人はグッドニュースでも威張って話したりしませんね。でも、海外投資家の方々はそれをばかにすることはありません。

外国人の視点は貴重ですね。歴史が長い会社についてのエピソードもありますか?

ありますよ。アメリカでもとっても有名な運用機関との面談に同行したときのことです。もともとは若いアナリスト1名をお招きする予定だったんですが、暇だからとオーナーの女性もいらっしゃったんです。
その企業のオフィスが意外と地味で、「古いな~」と思いながら入ったんですけれどもね。

「ここは良い会社だ!」

とオーナーの方が仰るんです。
私は「本当? ちょっとshabbyじゃない?」なんて言っちゃいました(笑)
そうすると、

「いや、誠実さを感じる」

って言われてました。そういうところも見てるんだな、と思いましたね。

地味なオフィスに誠実さを感じられるのですか。意外ですね。

意外なことはほかにもありますよ。

日本だと、昔は受付に綺麗な女性がいて、お花をいっぱい飾るのが当たり前でしたでしょう。あれって外国人にはばかにされるんじゃないかと思ってましたけど、実はすごく好きなんですよ。

「こういうところに来ると日本に来たと感じる」ってアメリカ人の皆さんが言うのでびっくりしました。「日本の美しい伝統だと思う」って。「ヨーロッパでは電話機がひとつ置いてあるだけで、内線を見つけて自分で行け、というスタンスで、ひどい話だよ」って言ってました。効率重視かと思いきや意外と違うんですよね。

そういう意味では、日本茶が蓋つきの湯飲みで出てくると喜びますよ。あるところで抹茶が出てきたときはすごかったです。リスペクトするっていうのかな、もう姿勢が違って、いきなり下手(したて)に出てました。こういうのに弱いんですね。「飲み方を教えてほしい」なんて言ってましたよ。

海外投資家は「実績」に怒らず「嘘」に怒る

逆に、海外投資家が怒っているところを見たことはありますか?

「嘘つき、嘘つき!」って罵ってるのを一度だけ見たことがあります(笑)
でも、言われても企業側の方は動じなかったんですよね。投資家はいつもの調子からは考えられないくらい怒っていたんですけど。
激昂してるのを通訳者に見られてはっとしたんですかね、終わった後に言い訳してました。

「この会社はまずね、英語のIR資料を載せるのが遅すぎる。日本語版よりも1カ月も遅い。しかも、出した内容が前回の決算のときと違ってる」

「予定通りいってないこととか、大事な事象について、本来ならもっと早く英語で開示しないといけないことはわかっているはずなのに出してない。嘘つき、ものすごい損をさせられた」

やっぱりスピードって投資の世界では命なんじゃないですか?

でも、何度噓つきと言われてもその会社のIRの方が言うことは変わりませんでした。

「翻訳っていうものは時間がかかるんで……」

「一応日本語では出してるんですけど」

それって海外投資家をないがしろにしてますよね。大きな会社だったんですけども。
どうしてあんなことになっていたんでしょう。

海外投資家はキャッシュの使い方に興味を持つ

海外投資家が共通して興味を持たれることは何でしょうか?

投資家として共通するのは、投資先の企業が何にお金を使う(=投資する)のかに関心があるような気がします。たぶん自覚的ですし、大事なことだと思ってるんでしょうね。
日本企業はキャッシュがあるので、このキャッシュをどう使っていくんですかということを聞かない投資家はいないです。

その会社の投資哲学と自分の投資哲学が合っているかどうかも見ているんじゃないかな、となんとなく感じます。お金の使い方を聞いて「それよりこっちに使うのが良いんじゃないか」と意見をすることもあれば、「良い使い方だね!」と感想を言うこともあります。
自分だったらどう使うかを考えてるんじゃないかな。

投資について尋ねるということは、その会社に成長して欲しいということですよね。

はい。長い目で見てどういう成長をするのか気にされていますね。
足元の数字は、資料でも見られるからか、あまり話に出す方は多くないように思います。

短期的な数字が悪くとも、理由に納得できれば良いのでしょうか?

「なぜ?」と聞くのは理由を知りたいからであって、数字が悪いことを非難しているわけではない、と投資家は言っています。
ただ、約束したことがぜんぜんできていないのはだめですね。自分のペイがかかってるので怒ります。短期でパフォーマンスを出さないといけない投資家は特に。
でも、数字が悪いことを怒るんじゃなくて、嘘をつくことを怒るんです。

数字を達成できなかったとしても、その理由を言えばいいんですよ。見通しが甘かったって。どのあたりが甘くてどう修正していくのか。こういう説明を投資家は求めています。それなのに企業の方が「こうなると思ってなかったんでしょうがないじゃないですか」なんて開き直るとねえ(笑)

出身国ごとの違いはあれど、海外投資家には訪日を望む方が多い

 

出身国による海外投資家の違いはありますか?

違いはあります。特にアメリカ人は次から次に気になったことを質問するので、ひとつのことに注目している時間はすごく短いです。説明している間に次の質問に行っちゃいますね。
ヨーロッパ人のほうが付き合って聞いてくれます。

最近はアジアや中東の人も増えてきましたね。
国による違いはあっても、みなさん国内訪問を望まれますので、面談の後に、次は本社や工場に招待しますなんていうと喜ばれますよ。

コロナ禍によるオンライン面談だけでは、投資家は満足できていなさそうですか?

そう思います。毎年やっている大手証券会社のIRカンファレンスのコマ数はここ数年ずっと増え続けています。コロナ禍が始まってオンライン実施にしたら、投資家からの申し込みがガクンと減っちゃったんですって。

ということは、企業の実像を掴むコツは実際に会うことなんですね。

直観というんですか、過去に見聞きしたいろいろな経験が意識しないうちに引き出されて、「あ、これは買いだ、とか売りだ」っていう判断に繋がるんだと思います。
だからIR担当者の責任は重いですよね。

まとめ

『IR通訳者に聞く海外投資家の実像:ミーティング実践におけるポイント 編』は以上になります。
重要な部分をまとめます。

  • 海外投資家のお出迎え = 気が散らないよう配慮するのがベスト(ドリンクは入室時に時間をとらせず提供など)
  • 日本企業を信頼する瞬間 = 地味でも誠実さを感じるオフィス、日本らしい歓迎(入口に花、日本茶を湯飲みで提供)
  • 海外投資家が怒りを感じること = 嘘をつくこと(数字が悪いことは怒らない)
  • 共通して海外投資家が興味を持つこと = キャッシュの使い方
  • 出身国ごとの違いと共通項 = ひとつのことに注目している時間はアメリカ人<ヨーロッパ人。共通して訪日を望む

なかなか見えてこない海外投資家の実像を掴む一助になれば幸いです。
次回は『建設的な対話に踏み込むためのコツ』です。

プライム企業必見!IR通訳者に聞く海外投資家の実像:建設的な対話のコツ 編

 

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