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IPOして間もない企業やIR兼務の方へ、着手しやすいIR施策を解説!

IPOして間もない企業やIR兼務の方へ、着手しやすいIR施策を解説!

上場企業ごとに適切なIR戦略が何か、日々模索しているIR担当者は多いのではないでしょうか。

業種、時価総額、市場など、さまざまな要因が絡まることから、企業に応じて採るべき戦略は変わります。IRを担当して長い方であれば問題なく立案できるかもしれませんが、上場して間もない企業、あるいは1~2年しかIR経験がない、という方の場合はなかなか指針が見つからないと思います。

そうした方のために、IRを担当して10年以上、複数の企業で経験を積まれているS. W.さんにお話を伺いました。そのご経験から、今回は着手しやすいIR施策についてお伝えしていきます。

以下の特徴のうち当てはまるものがあれば、ぜひご一読ください。

・IPOから数年程度の企業

・グロース市場

・兼務でIRを担当している方

・思うようにIRに予算を割けない

次項よりS.W.さんの執筆箇所に入ります。IRを行う意義のおさらい、メリットの再確認をしてから、具体的な施策についてお話ししていきます。

著者:S.W.

2008年よりIR業務をスタート。以降、異なる業種の上場会社、(ソフトウエア会社、エンタテイメント会社、不動産会社)、異なる市場(JASDAQ、東証一部、マザーズ)でIRを経験。現在、決算発表から機関・個人投資家対応までIR業務全般を担う。国内外含む機関投資家との個別ミーティングは年間約300件。

 

IR戦略の意義。なぜやるのか。どんなメリットがあるのか。

IRを実施する意義は、個人投資家であれ、機関投資家であれ、まずは「株を買ってもらう」ということになるでしょう。東京証券取引所に上場している会社は約3,800社。投資家にとっては、3,800社全ての業績を分析し、その中から投資に値する企業を探すのは至難の業です。

この前提に立つと、積極的にIRを実施し、まずは投資家に会社を知ってもらうことが、企業にとっては重要となります。そして、投資家が分析出来る、もしくは分析しやすいように開示内容を充実させていくことにより、会社と投資家との間の情報の非対称性をなくす努力をすることも大切です。

こうした努力により、企業には以下のメリットがもたらされます。

  • 企業価値の向上
  • 資金調達をしやすくなる(資本コストが下がる)
  • 有事の際、必要以上の株価下落を防ぐ

メリット1. 企業価値の向上

開示を充実することで、会社と投資家間の情報の非対称性をなくしていけば、会社の状況を正しく理解してもらうことになり、企業価値が向上します

企業価値とは将来会社が生み出すことを期待されている価値の合計で、株主価値でいえば時価総額ということになります。多くの投資家からの投資によって株価が上昇すれば時価総額が上がる、すなわち企業価値が向上するのです。

また、メリット2にも繋がりますが、リスク情報等の開示も行うことで投資家が期待する価値の大小の振れ幅が小さくなり、資本コストを下げることにも繋がります。

メリット2. 資金調達をしやすくなる(資本コストが下がる)

株価が上昇すれば資本調達をしやすくなり、調達コストも必然的に下がります。当たり前ですが、1株100円と1,000円では調達額の差は10倍。

また、株式交付を主としたM&Aを実施するような際にも、株価が高ければ高いほど有効に働きます。株式を活用したM&Aはキャッシュアウトを伴わないため、手元資金が多くない場合でも、自社に必要な技術や製品を得ることが可能です。株価が高ければそれだけ少ないコストでM&Aが実行できるのです。

メリット3. 有事の際、必要以上の株価下落を防ぐ

もしかするとこれが一番重要かもしれません。IRを十分に実施しておくことで、有事の際に一時的に株式が売られたとしても、株価の戻りが早い可能性があるのです。

有事には、自社ではコントロールできない外部要因(金利の上下や海外マーケットの動向等々)と自社が原因となるレピュテーションリスクによるものがあります。

外部要因でマーケット全体が下がっているような場合、従前よりIRを実施しておけば、中長期的な投資家が入ってきて、株価の下支えをしてくれることもあります。バリュエーションが高く手が出なかったような銘柄でも、株価が下がってくれば、新規参入や買い増しをしてくれるからです。

自社の不祥事等によるレピュテーションリスクによる場合には、業績に関係なく大きく売られることもあります。もちろん、不祥事の度合いにもよりますが、株主や投資家と常日頃から丁寧にコミュニケーションを取っておくことにより信頼関係を築けていれば、仮に不祥事が起こってもきちんと原因や対応策を説明することで、むやみに売られることもなく、上記と同様の新規参入や買い増し、大株主の離脱等を防げる可能性もあります。

着手しやすい具体的なIR施策

では、企業価値を向上させ、資金調達をしやすくし、有事の際の株価下落を防ぐためには何をすればよいのでしょうか。それはやはり地道に丁寧にIRをしていく以外に方法はありません。とはいえ、大企業は別として、グロースなどの新興市場ではIR部門は兼務であったり、予算も思うように割けないという会社も多く存在すると思います。

そこで、まずは自分たちだけでできそうなことをピックアップしてみました。全部はできなくともできそうなところから着手するだけで、それなりに効果はあるはずです。

  • 四半期ごとに決算説明会を実施しよう
  • 決算説明資料の情報開示を充実させよう
  • IRサイトの情報開示を充実させよう
  • 英文資料を充実させよう
  • 証券会社に依頼をして投資家アポイントをいれてもらおう
  • 個人投資家向け説明会も四半期に一度は実施しよう
  • 過去に取材を受けた投資家に定期的にコンタクトを入れよう

四半期ごとに決算説明会を実施しよう

決算説明会を四半期ごとに実施していない会社は意外と多いです。決算説明会を開催する意義は、そのQごとに短信ではわからない情報をきちんと投資家に伝えること。決算説明会は実施せずとも短信以外に決算説明資料を作成している会社もありますが、せっかく資料を作っているのであれば、社長やCFOに登壇してもらい、自分たちの生の声を、顔をみせて伝えましょう。説得力が増します。

特に業績が芳しくなかった場合、結果と原因、今後の対応策を説明することで、市場からの信頼を回復できる(下落が下げ止まる)ことにも繋がります。

また、四半期ごとに説明会を実施すれば、投資家とのタッチポイントも自ずと増加する、というメリットがあります。実際、私は決算説明会に参加してくれた投資家全員に1on1の取材を依頼しており、一定数の投資家の取材を実現できています。投資家の短期志向や企業の負担が大きいことから四半期開示の見直しが政府によりなされ、決算短信に一本化する方針となりましたが、四半期ごとに開示をするならばそのメリットを積極的に享受しましょう。

決算説明資料の情報開示を充実させよう

決算説明資料は企業によってさまざまではありますが、重要KPIなど、投資家が求めているものの開示を少しずつでもよいので充実させていくべきです。

投資家は企業の業績を分析するスプレットシートを作成していますが、その事業の伸びを分析するデータが足りない場合には企業の分析ができません。すなわち、情報開示が不足している企業の成長性はカウントされない可能性があり、非常にもったいないのです。投資家は業績成長の説明ができない会社には投資をしません。

どのようなデータが必要とされているかは、投資家からの取材の際に質問をすればほとんどの人が回答してくれます。その回答を参考に、開示できそうなものであれば積極的に開示をし、どんどん資料を充実させてみてください。業績が伸びている、成長が著しいような会社の決算説明資料は四半期ごとに手が加えられています。

自身の経験でも、取材の際に資料についての質問をし、その回答を蓄積して、リクエストの多い内容については経営陣と相談し、開示できる項目を増やしています。大きな追加事項は通期で、小さなものは四半期で実施しており、投資家からも評価をもらっています。

IRサイトの情報開示を充実させよう

IRサイトは投資家にとって重要な分析ツールです。短信や決算説明資料のほか、投資家の分析を手助けできるよう、ファクトブック、説明会の全文書き起こし、コーポレートガバナンス・サステナビリティ、株価分析ツール、業績財務ハイライトなど、少しずつでも良いので開示の充実を図りましょう。

IRコミュニティ運営
IRコミュニティ運営

詳細は別の記事でご紹介できればと思います。掲載次第、以下のページに追加されていきます。

IRコミュニティ – タグ:ホームページ

 

IRコミュニティ運営
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また、IRサイトにおける情報開示については、Gomezをはじめとした機関が評価を行っています。下記ページに評価基準等をまとめていますので、ご興味があればご覧ください。

IRサイトランキング各評価の違いと自社株価表示導入企業の順位の変化を紹介

 

英文資料を充実させよう

予算との兼ね合いがあるかと思いますが、時価総額を上げたいと思ったら海外投資家を増やすことが肝要で、そのため英文開示は必須です。

国内投資家だけではなく海外投資家の保有が、流動性、長期的な投資の両方において、重要になってくるからです。短信の場合、サマリーでも良いので英訳しましょう。海外投資家とのミーティングの際には英文の説明資料も必ず必要になってくるので、早期のうちに着手することが望ましいです。

投資家にとって投資対象の企業は世界中に星の数ほどあり、よほど突出した会社でなければ英文資料がない企業をわざわざ投資対象に選んではくれません。また、英文資料を作成した場合には、IRサイトに掲載してください。日本語サイトしか無いのでと躊躇される方もいますが、日本語サイトに混じっていても構いません。開示しているということが大切です。実際、知り合いの会社は英文資料開示後、海外投資家の取材が4倍になったそうです。

証券会社に依頼をして投資家アポイントをいれてもらおう

開示を充実してみたものの、そもそも機関投資家のアポイント数が増加しないことに課題に感じる会社は多いと思います。その場合、複数の証券会社に取材のアポイントの依頼をしてみると良いでしょう。主幹事証券であれば相談しやすいと思いますので、まずはそこから進めてみてください。

また、有料で投資家のアレンジをしてくれるIR支援会社もあるようですので、特に海外投資家へのアプローチはそちらを活用することも1つの手段として検討してみることも良いと思います。私の場合も、決算発表後、証券会社に日程と時間枠を提示して順次投資家のアレンジをしてもらっています。

過去に取材を受けた投資家に定期的にコンタクトを入れよう

証券会社に依頼をしたがアポイントが残念ながらほとんど入らなかった、という場合もあるでしょう。そういった時にはここ1年間取材のない投資家や、またIPO時のロードショー以来お会いしていない投資家に連絡を取ってみるのがおすすめです。

時価総額や流動性の観点で基準を満たしていないなど、投資家によっては投資ができない場合もありますが、取材を一度でも受けたということは、少なくとも会社に興味を持ってくれていたことになります。そのため、アップデートをお願いしたいといえば会ってくれる投資家も多いはずです。

私も定期的に投資家リストをチェックして1~2年お会いしていない投資家様に直接メールでご連絡をするようにしています。

個人投資家向け説明会も半期に一度は実施しよう

機関投資家も重要ですが、個人投資家も重要です。この二者は車の両輪だと思っていただければわかりやすいでしょう。流動性の観点からも個人投資家向け説明会を積極的に行う意義は大きいです。

また、IPO直後だとなかなかすぐに機関投資家に保有してもらえるわけではないので、まずは個人投資家対応を積極的に行うことで、ある程度の流動性が担保できます。

株価の出来高が少なく、企業そのものが注目されていないことほど残念なことはありませんので、機関投資家へのアプローチが難しい場合、個人投資家向けの説明会を頻繁に開く、といった対応をおすすめします。最低でも半年に一度は開催することが望ましいでしょう。

最近多くの企業がIPO直後から積極的に個人投資家向けの説明会を実施しています。個人投資家のレベルも近年大変高くなっており、実際、精緻な分析や非常に的を射た質問をくださる方も多いです。

証券会社系のIRコンサル会社含めてさまざまな個人投資家向けの説明会が実施されていますが、個人で自主的に勉強会を開催して企業を誘致しているようなコミュニティもあります。そういったコミュニティは実に勉強熱心で、時々億単位の資産を運用されている方もいます。

費用があまりかけられない場合には、証券会社に依頼をして支店向けに実施することも可能です。コロナ禍によってなかなか対面が難しくなっていますが、逆にオンラインでの説明会のほうが集客力が高いということもありますし、工夫次第で実施は可能ですので、ぜひ検討してみてください。

まとめ

今回はIR経験10年以上のS. W.さんのご経験をもとに、着手しやすいIR施策をまとめていただきました。

内容をおさらいします。

IR実施の意義:「株を買ってもらう」こと

IR実施によるメリット

  • 企業価値の向上
  • 資金調達をしやすくなる(資本コストが下がる)
  • 有事の際、必要以上の株価下落を防ぐ

着手しやすいIR施策

  • 四半期ごとに決算説明会を実施
  • 決算説明資料の情報開示を充実させる
  • IRサイトの情報開示を充実させる
  • 英文資料を充実させる
  • 証券会社に依頼をして投資家アポイントをいれてもらう
  • 過去に取材を受けた投資家に定期的にコンタクトを入れる
  • 個人投資家向け説明会も四半期に一度は実施

IRへの予算や人員の関係から、全ての上場企業がIRに全力を出せるわけではないと思います。

ぜひ、本記事でご紹介した施策から手をつけていただければ幸いです。

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