コロナ禍において、今まで実現できていなかったリモートワークやウェブ会議が一気に広まりました。
この流れに乗り、決算説明会や個人投資家説明会もウェブオンリーでの配信が違和感なく、一般的となりました。
最後の砦であった株主総会も2021年6月16日に、産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律(令和3年法律第70号)の一部規定が施行されたため、一定の要件を満たし、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた上場会社は「場所の定めのない株主総会」(いわゆるバーチャルオンリー型の株主総会)を開催することが出来るようになりました。
そこで、今回は日本初のバーチャルオンリー株主総会(以下、バーチャルオンリー)を開催した株式会社ユーグレナ様にインタビューを行いました。今後、バーチャルオンリーの開催を検討する材料になると思いますので、ぜひ参考にしてください。
ユーグレナ社様インタビュー
―今回、日本初のバーチャルオンリーを開催されたとのことですので、多くの上場企業様が注目されているかと思います。この経験を多くの方へ知っていただく為に、今回インタビューさせていただきます。
よろしくお願いします。
―今回バーチャルオンリーを日本で初めて開催されましたが、社内外で反響はありましたでしょうか?
社外からはご承知の通り初めての開催ということで、テレビ局や新聞社等から多くの取材申込をいただきました。やはり、初めてと2番目では印象が違うのだなということを感じました。
また、社内に関しては日本で初めて挑戦して上手くいったことを評価されています。元々社内では初めて挑戦することや、株主様にとって良いことを取り入れることに対して応援する雰囲気があったので、初めての取り組みが上手くいって良かったね、などのコメントを貰いました。
―では、バーチャルオンリーを実現するにあたり、どのようなサービスを利用したのでしょうか?
議決権行使サービスについては、株主様がウェブブラウザ上でログインをして賛否をクリックしてもらうシステムです。映像配信もありますが、その部分は別の映像専門の企業様にお願いをしました。
この組み合わせは今回のバーチャルオンリーで初めて行ったのではなく、前回の定時株主総会時(2020年12月18日)に行ったハイブリッド型(会場への来場とウェブの組み合わせ)で利用しています。
―今回この議決権行使サービスと映像配信を提供されている2社の企業様の決め手は何でしょうか?
前回の定時株主総会の際に、当社の証券代行業務を行っている信託銀行様に、ご相談をさせていただきました。信託銀行様から今回の2社をご提案いただいたので利用させていただきました。加えて、当時はまだサービスの選択が少なかったこともございます。
今回に関しては臨時株主総会であった為、準備期間が少なかったこともあり、定時株主総会で全く問題もなかったことから、利用させていただきました。
―バーチャルオンリーを行うことを進めた方は誰でしょうか、また、最終決定をしたのは誰でしょうか?
運営を担っているのが、管理部euglee(ユーグリー)課と経営戦略部です。この部門同士でバーチャルオンリーにて行うのが現実的かどうか検討を行いました。検討の結果、問題無いと判断したので経営層へ、バーチャルオンリーで行いたいと伝えました。
一方で経営層もバーチャルオンリーで行えるのであれば行いたいという想いはありました。バーチャルオンリーで開催することの最終決定は取締役会の招集決議でした。
―バーチャルオンリーでの計画は開催日の何日前から始めたのでしょうか?
今回の開催日は2021年8月26日でしたが、臨時株主総会を行うことは4月位から決定していました。臨時株主総会を行うことを対外的に開示したのは6月14日でした。この時はまだ法令上も認められておらず、前回の定時株主総会で上手くいったのでハイブリッド型で準備を進めていました。
ところが、7月初旬に法令が変わってバーチャルオンリーで開催できることを知りました(法令は6月16日に施行)。そこからバーチャルオンリーでの開催が視野に入り準備を進めていきました。
―2ヶ月弱の準備期間は短かったでしょうか?
短かったです。あと1ヶ月あったら良かったなと思います。
―1番時間を使ったところはどの点でしょうか?
シナリオ作成です。
―開催にあたっての下準備として必要だったことは何でしょうか?
1つ目は、経産省と法務省への確認申請です。これが通らないことには開催ができません。そして、申請の中にいくつかポイントとなる項目があり、クリアをする必要があります。詳しくは経産省のガイドラインに掲載されています。
この中で今までやったことがなかったのが、インターネットが使えない株主様への配慮です。リアル会場がある場合はお越しいただければ良いのですが、バーチャルオンリーではこれができません。
対応としては、社内の会議室を開放してPCを用意し、サポート人員も配置して来社していただければ、会議室からバーチャルオンリーに参加していただけるようにしました。事前申し込み制にしましたが、今回は申し込みがありませんでした。また、事前の議決権行使が必要ですが、電話会議システムによる音声配信も行いました。電話会議システムについては、当日ネット環境が悪い場合はバックアップとして利用できるよう案内していた為、20名の株主様が利用されていました。
2つ目は、招集通知とシナリオの作成です。前例が無い中での作成の為、外部の専門の弁護士に相談して、法律的にクリアしているか確認をしました。
3つ目は、障害パターンの洗い出しです。そして、障害に対するシナリオの作成を行いました。
4つ目は、バーチャルオンリー独特ではありますが、予備日の決議です。万が一障害が発生し、株主総会が止まってしまった場合、再度、招集決議を行って招集通知を出すことが無いように予備日の決議を行うことを決め、予備日の為の人員(映像配信スタッフ等)や機材の確保をしました。
―では当日運営の費用だけでなく、予備日用の費用やバックアップシステムの費用などがある中で、従来の会場開催と比べてコストはいかがでしょうか?
一概には言えないとは思いますが、従来は1,000人規模の会場を借りていたことから、弊社に関しては約半分位のコストダウンとなりました。
―バーチャルオンリーで開催をしてみて、改善が必要だと感じた部分はありますか?
出来るのであれば、当日参加される株主様の事前の把握が必要だと感じました。理由としては、今回は臨時株主総会であったことから、前回の定時株主総会より参加者が少ないと見積もっていました。しかしながら、実際は定時株主総会よりも参加者が多く562名に参加していただきました。今回は問題ありませんでしたが、弊社としましては200名弱で見積もっていたので、システム的な準備とのギャップが発生する可能性がありました。
さいごに
今回ユーグレナ様ではバーチャルオンリーについて参加された株主様にアンケートを取っています(出席者562名中447名が回答)。バーチャルオンリーを実施したことについては99.5%が評価しています。
出所:株式会社ユーグレナ「ユーグレナ社が日本初のバーチャルオンリー株主総会を実施99.5%が「評価する」と回答」
また、出席することについては94.5%が問題なかったと回答しています。
出所:株式会社ユーグレナ「ユーグレナ社が日本初のバーチャルオンリー株主総会を実施99.5%が「評価する」と回答」
意外だったのが出席者の年齢分布です。若い人ばかりでなく、60代や70代の方も参加されていました。
出所:株式会社ユーグレナ「ユーグレナ社が日本初のバーチャルオンリー株主総会を実施99.5%が「評価する」と回答」
バーチャルオンリーでは会場型に比べて、障害発生時のシナリオやバックアップシステムの準備、ネット環境が無い株主への配慮が必要になりますが、参加者が居住地に縛られず参加できることや、場合によってはコストダウンの可能性があります。
このメリットを最大限に活かせるよう準備を行い、ハイブリッド型やバーチャルオンリーの株主総会の開催を考えられている企業様は、ぜひ実現してみてください。