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海外IRを始めるならIR英語から – 三島のどかのプレイン・イングリッシュ

海外IRを始めるならIR英語から – 三島のどかのプレイン・イングリッシュ

IR担当者にとって海外IRへの対応は悩みの種。英語で情報開示をするとなったはいいものの、どのように開示していけばいいか不安に思ったことはないでしょうか?

実際にコーポレートレポートガバナンス・コードの2021年6月の改訂版では、「プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、 英語での開示・提供を行うべき」とあるが、一体何を英語化すべきなのか、優先順位を教えて欲しい!とよく質問を受けます。

外国人投資家が投資を検討する際に、日本企業のウエブサイトを見て、英語版の資料を見つけられない時、「投資対象から外したり株式の評価を下げたりする」と東証のアンケートに答えた投資家もいるそうです。

では、英文IR資料を作るには何を心得ておくべきか。
まずは最重要項目についてお話します。

この記事を読むことで、英文IR資料を作る際の要点を抑えられるようになり、以下のメリットまで享受できる可能性が生まれます。

  • 無駄な問い合わせが激減
  • 海外子会社との関係性向上
  • 株価に悪影響となる原因の排除

あなたの会社の社長メッセージは大丈夫? 投資家に読まれる文章とは

まずは以下の「社長メッセージ」の英文を読んでみてください。

In the first quarter of the fiscal year 2020, the Group was severely impacted across all segments, particularly the core XXX business. The spread of COVID-19 led to a sharp decline in XXX demand, as movement of people in Japan and abroad was greatly restricted by entry and travel restrictions worldwide, as well as the declaration of a state of emergency in Japan.
As a result, the company recorded a significant loss in its first quarter results. As it is unclear when the COVID-19 situation will be resolved, it is impossible to reasonably estimate the performance outlook, and the forecast for the fiscal year ending March 2021 cannot be determined at the present time.

日本語:2020年度第1四半期において、当社グループは、中核となるXXXビジネスを中心に、すべてのセグメントで深刻な影響を受けました。新型コロナウイルスの蔓延により、世界的な入国・渡航規制や日本における緊急事態宣言により国内外の人の移動が大きく制限されたことで、XXXの需要が激減しました。
その結果、第1四半期決算では大幅な赤字を計上しました。なお、新型コロナウイルスの状況がいつ解消されるか分からないため、業績見通しを合理的に見積もることが困難であり、現時点では2021年3月期の業績見通しを判断することはできません。

一見よくある文章に見えますが、IR担当としてではなく、読み手、つまりは投資家目線でこの文章を読んでみてください。問題点を見つけられますか。

問題点① この文章は「社長メッセージ」であり、決算短信の定性情報ではない

ひとつめは、この文章は決算短信の定性情報ではなく、社長メッセージである、という点です。

定性情報の内容をそのままIRサイトの社長メッセージに転記されているケースを目にすることがありますが、「社長メッセージ」の役割や目的をきちんと把握する必要があります。

問題点② 読み手が読み進めたい文章になっていない

仮に上記の文が決算短信の定性情報であっても、読み手(ステークホルダー)は必要な情報をすぐに入手することができるか、これ以上読み進めたいと思うでしょうか。その答えは恐らく「ノー」。上記の文で読み手が知りたい情報は結論。

つまり、「第1四半期決算では大幅な赤字を計上」、「業績見通しを判断することはできない」です。これはこのパラグラフの最後に書かれています。

さらに言えば、業界の状態を考えれば、このような結果や業績見通し未定についても投資家は承知していることでしょう。

投資家が本当に求めている情報は、「このような状況の中で、何をしているのか、次どこに進もうとしているのか」です。

今回の例のようにいきなりビジネス環境の説明がきてしまうのは効果的ではありません。投資家に映る印象としては、「言い訳が多い」という印象となり、それだけで投資家はこの会社の方向性について不安を感じてしまうでしょう。時間がなければ、後半に書かれているであろう取り組みまで読まずに閉じてしまうかもしれません。

IR資料を作る前に、こちら(企業側)が何を伝えたいのか、ではなく、読み手(ステークホルダー)が何を知りたいのかをきちんと把握してから文章を構成していきましょう。
そしてその資料を作成する意図・目的を明確にしましょう。そうすれば自ずと何をどのような順番で記載すべきか見えてきます。

時代と共に変わっていくコミュニケーション術

16世紀後半 45 → 19世紀後半 29 → 現在 18 →?

ここにある3つの数、何の数字だと思いますか?

この数値は、時代ごとの英語の文の長さの単語数の平均値です。

時代とともに情報は加速度的に増え、情報の取扱者、伝達の範囲が広がると、文の長さは逆にどんどん短くなっていきました。

現在推奨される英語の文の長さは一文が17ワードから20ワード。簡潔で、誤解のない平易な表現が推奨されています。ウィズコロナ時代に突入し、新しい日常にも慣れてきました。

オンラインコミュニケーションが必須の時代。Face to Faceでのやり取りが少なくなってきている今、言葉の位置づけにも明らかに変化が起きているでしょう。

SEC推奨、先進各国政府も着手、2019年9月にISO化が採択。プレイン・イングリッシュをご存知ですか?

イギリスやアメリカでは、コロナ時代から遡ること50年も前から、誤解なく伝えたいメッセージを伝えるための工夫がなされていました。

皆さんはプレイン・イングリッシュをご存知ですか。

プレイン・イングリッシュとは

Communication is in plain language if its wording, structure, and design are so clear that the intended audience can easily find what they need, understand what they find, and use that information.

Source: International Plain Language Federation

読み手が必要とする情報を容易に、

  • 見つけることができ
  • 理解することができ
  • 活用することができる

『読み手』を中心に考えた言語のスタイルです。

プレイン・イングリッシュの成り立ち

1954年:イギリス大蔵省のアーネスト・ガワーズ氏によって発案
政府が書く文書に難しい言葉や、長い文章が使われ、分かりづらかったため、国民からの問い合わせが多く発生し、結局は、さまざまな面でコストがかかってしまったことが発端でした。
1970年代:公文書の平易化を訴える「Plain English」の市民運動が勃発
1982年:15,700書式廃止
~1983年:1億7,000ポンド節約

1978年:米国政府は大統領令を発令『文章業務削減法』
1998年:アメリカ 証券取引委員会(SEC)は株式公開企業、また証券会社、弁護士に対して、法的義務のある報告書をプレイン・イングリッシュの記述法で報告することを義務付け、
プレイン・イングリッシュのハンドブックを発行


それまで情報を発信する側の 「権利」に重きが置かれていたのが以後は、情報の受け手の権利を守ることに重きが置かれるようになりました。

例えば、それまでは、業績が悪い場合の発信には、わざと回りくどく、難しい文法で何度も読み返さないと理解できないような書き方が許されたり、経営的なリスク要因がある場合は、冒頭に長い前段を書き、最後に少しだけリスク内容を書き添えるという操作を行っても罪になりませんでした。

しかし、それ以降は、そうした行為が違法となり、情報開示のスタイルによっては、自ら法的リスクを招き入れないよう、企業の姿勢が改められました。

導入前の期待を上回る効果と実績に、イギリス、アメリカ政府に続き、カナダ、オーストラリア政府でもプレイン・イングリッシュが導入され、また英語圏に限らず、北欧、フィンランドやノルウェー、EU、ポルトガルやハンガリー政府なども自国の言語をプレイン化する動きがこの10年で急速に高まっています。

また、2019年にはISOがプレイン・ランゲージの国際標準化を採択し、ますますその動きは加速しています。

日本政府でもそうした世界の動きを受け、2018年頃から少しずつ各省庁の法令に「分かりやすい表現」と言う言葉が記述されるようになり、平易な日本語、すなわちプレイン・ジャパニーズを使っていこうという流れが始まりました。

SDGsのロゴもプレイン・イングリッシュの考え方から

皆さんこちらのアイコンご存知ですよね?
SDGsの17のゴールです。
このSDGsのロゴやコミュニケーションを担当されたのが、ヤーコブ・トロールベック氏。

編注:SDGsについて詳しく知りたい方はこちらの記事を参照

SDGsの理解を広げ、誰もがその活動に参加でき、ゴールを目指すために、SDGsを分かりやすい言葉で より効果的に伝える工夫をし、みんなが課題の解決に取り組んでもらうように、そして行動に移してもらえるように作ったそうです。

こちらももともと国連が作ったオリジナルは、難しい言葉で長文で書かれていました。それをヤーコブさんが分かりやすくダイレクトで、平易な言葉に書き換えたそうです。

はじめは単なる文章の羅列、それも小難しい文章だったSDGsに、関係者の誰もが、「これでは伝わらない」「実現は不可能だ!」とささやかれていました。

ヤーコブさんも初めて、それを目にした時、「回りくどい抽象的な表現や難しい言葉で、分かりづらい」など、「コミュニケーションにおける、典型的な悪い事例だ」と思ったそうです。

参考:アイコンが作成される前の説明書き

複雑な内容をいかに分かりやすくし、言葉から行動につなげてもらうために――。彼は取り組みました。

現在、世界の先進国の2人に1人がSDGsについて理解しているそうです。

もし、このアイコンがなかったら、SDGsはこんなにも世界に広がっていたでしょうか?

プレイン・ランゲージは、文章に限らず、プレゼンテーション、演説、説明責任を果たすといった法廷の場、医療の現場、各シーンで、有効的に使われています。

特にリスク・コミュニケーション、すなわち、利用者や市民、消費者が危険や危害、損害を被る可能性がある場合は、政府や企業はプレイン・ランゲージを使って、明確に説明する責任がアメリカやヨーロッパでは法律で厳しく義務付けられています。

プレイン・イングリッシュ 使うことでのメリット、使わないことでのデメリット

具体的な数値でプレイン・イングリッシュの効果を見てみましょう。

CASE1:無駄な問い合わせが激減/内容をきちんと理解してもらえる

 

出典: plainlanguage.gov

上記はアメリカ退役軍人省が給付金申請に対する通知において、対象者に対し、従来の硬い英語表現を使って通知した場合と、プレイン・イングリッシュを使って分かりやすい通知を行った場合に受けた、問い合わせの数を比較しています。
問い合わせの件数が1か月で83%も激減しています。

この結果から分かるのは、プレイン・イングリッシュは、
読み手:必要な情報を素早く、誤解せずに、正しく理解できる
発行側:問い合わせ件数が減り、業務効率化に繋がる
⇒双方にメリットがあることが分かります。

政府のそうした取り組みに追随する形で、民間企業も、消費者向けの契約書などのプレイン化が進みました。

CASE2:海外子会社との関係性アップ

弊社では統合報告書やアニュアルレポートの制作に携わっています。
IRご担当者様は日ごろの激務と比べて、目に見える効果が得られにくいため、ご自身が担当されている業務が果たして正解なのかいつも手探りだとよく伺います。

そんな中、とある会社でプレイン・イングリッシュの考えを用いた英文アニュアルレポート制作のお手伝いをした際に、今まで発行後はフィードバックが何もなかったのが、社内からフィードバックの連絡が来たそうです。

内容としては、まず「デザインがとてもシンプルで目に留まりやすい」という点。そして、海外子会社の社長からは、「今まで以上に社長の意図が伝わり、社員のトップへの理解度が深まった。どうもありがとう」とフィードバックをもらえたと嬉しそうにご連絡をいただきました。

IR活動というのは株主に対しての発信が中心かと思いますが、このように従業員を含めたステークホルダーとの対話としても役立つコミュニケーションツールとして、プレイン・イングリッシュが役立つということが分かった一場面でした。

CASE3:プレインでない言語でのコミュニケーションは株価に悪影響

出典: Bloomberg

ブルームバーグ社は2021年9月に、ラッセル1000インデックスに属するすべての企業について、重役が決算説明会で使う言葉とリターンの関係性についての調査結果を報じています。

記事によると、2014年以降、役員が最も複雑な言葉を使っていた100社は、年平均9.45%のリターンを記録しました。最もシンプルな言語の企業は、年率15.4%のリターンを上げました。

この結果から分かるポイントとして、何か隠し事があると、長い言葉や複雑な文章に逃げ込む傾向があるということです。

この記事では、現在詐欺罪で裁判中の血液検査のスタートアップ企業、Theranos(セラノス)の創業者エリザベス・ホームズの引用が掲載されており、滑稽なほどに曖昧な表現であったと語っています。

この記事ではさらに、以下の2点を示しています。

シンプルな言葉を使った決算説明会の企業は、内容にかかわらず、複雑な言葉を使った決算説明会の企業よりも、その後の株式リターンが高い。
簡単な言葉と簡潔さは必ずしも両立しない。よりシンプルな言語は、少なくとも文章の面では、より長いコミュニケーションと結びつく傾向である。

プレイン・イングリッシュを実際書くには?

ここでプレイン・イングリッシュ9つの基本原則についてお伝えします。
ここまで読んでいただいた方はもうすでにその殆どをご理解いただけているかと思います。

① 対象読者を明確に:冒頭の社長メッセージの英文で重要性を解説しました。

② 結論を文頭に:こちらも冒頭の社長メッセージの英文で重要性を解説しました。

③ 読む気になる紙面:こちらはSDGsのロゴが一例となります。すべての文書をあのようにアイコンにする必要はありません。手軽に出来る方法としては、まずは箇条書きを意識してみましょう。箇条書きは相手の注意を引くことができます。またポイントを絞れるので、書き手自身も情報の整理が出来るでしょう。

④ 文は短く:「時代と共に変わっていくコミュニケーション術」で解説しました。一文を一息で読める文章が理想です。ですが、一文20ワードを厳守するのはとても難しいことです。ときには長い文章もあると思うので、平均20ワード程度に調整できると大変読みやすくなります。ポイントは一文一意です。

⑤ 日常的な単語や表現:IR資料での対象読者は投資家だとして、投資家は皆さんの業界の専門家ではないということを常に頭に入れておきましょう。専門用語は出来るだけ避け、短く音節の少ないシンプルな単語を選ぶとよいでしょう。

⑥ 回りくどい表現を避ける:二重否定や曖昧な表現は避けましょう。また「強い動詞」を意識して使うとよいでしょう。「強い動詞」とはひと単語で表現できる動詞のことです。
(例)〇:apply ⇔ ×:make an application

⑦ 受動態より能動態:「~された」と日本語ではよく受動態が使用されますが、英語では能動態が自然です。受動態を使用すると自信がない印象を与えたり、何か隠している印象を与える場合もあり注意が必要です。

⑧ 否定形より肯定形:「金利が上昇しない限り、価格は下落しないだろう」、日本語ではよくある表現ですが、これを英文にすると読み手は混乱します。「金利が安定していれば、価格も安定するだろう」と伝えた方が読み手もすんなり理解できるでしょう。

⑨ 主語・動詞・目的語を近くに:例えば主語に対する説明が長いと主語と動詞の間に長い修飾節が入り、文章が分かりづらくなります。その場合は、修飾節を別の文章にしたり、配置を変えたりします。

このようにプレイン・ランゲージはただのライティングのスキルやテクニックを覚えるだけではなく、まずは心構え、例えば対象読者を明確にするなどを習得していただきながら、責任の所在を明確にするために受動態は使わずに、能動態を使用するなどの論理も同時に学んでいきます。

そうしたことで単なるシンプルな文章ではなく、読み手に合わせた理解しやすく且つ論理的な文章に仕上がるというライティング法です。

まとめ

IR担当者にとっては難しい海外IR対応、その攻略に役立つプレイン・イングリッシュについてお伝えしました。

繰り返しますが、プレイン・イングリッシュを使用した情報開示によるメリットは以下の通りです。

  • 無駄な問い合わせが激減
  • 海外子会社との関係性向上
  • 株価に悪影響となる原因の排除

プレイン・ランゲージを習得いただくことで思考パターンもプレインになり、ゆくゆくは意思決定もプレインになることで個人だけではなく、チームや会社全体へのビジネスの成功に繋がっていくのではないでしょうか。

ところで、プレイン・イングリッシュを習得するにはどうすれば良いのでしょうか?
それについては次回の記事でお伝えしますので、ぜひ読んでみてください。

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