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プライム企業必見!IR通訳者に聞く海外投資家の実像:ミーティングへの備え 編

プライム企業必見!IR通訳者に聞く海外投資家の実像:ミーティングへの備え 編

海外IRに取り組みたいIR担当者にとって、最も気になるのは海外投資家の実像ではないでしょうか?

彼らは何を知りたがっているのか、どんな企業を好むのか。その情報がわかれば、海外投資家のために何をすれば良いのかが見えてきて、自社の海外IRを効果的に進める足掛かりができるでしょう。

本連載では海外投資家へのアプローチを進めたいIR担当者のために、100社以上の実績を持つIR通訳者、M.I.さんにお話を伺いました。

その経験から、リアルな海外投資家像をみなさまにお届けします。

インタビュー内容は大きく3つに分かれます。

  1. 海外投資家とのミーティングへの備え
  2. ミーティング実践におけるポイント
  3. 建設的な対話に踏み込むためのコツ

今回は『1. 海外投資家とのミーティングへの備え』をテーマに、以下の情報をお届けします。

  • 海外投資家に向けた最適な資料準備
  • 「なぜ?」を繰り返す海外投資家の真意
  • 海外投資家にとって重要性の低い情報
  • 人気通訳者が語る、説明におけるポイント
インタビュイープロフィール
M.I. - 通訳者。あらゆる分野の国際会議で各国の要人の通訳を担当。IR通訳においては100社を超える実績を持つ。ウォーレン・バフェット氏が来日された時の通訳も担当。

 

通訳者の業務:日本企業と海外投資家の両者の立場でIRをサポート

本日はよろしくお願いします。今回の連載で、企業からは見えない海外投資家の実像をイメージしてもらえればと思います。まずは通訳のお仕事について教えてください。

よろしくお願いします。
IR通訳に関しては、私の仕事はいくつかに分かれます。

ひとつは、日本企業のラージミーティングの際、海外投資家の隣に座って行う通訳です。このケースはコロナの影響を受け最近は減っているんですけどね。

多くの投資家はラージミーティングで話すような数字などは事前にチェックしますし、他の投資家に質問を聞かれるのが嫌なようです。3~4社が集まるような小さなミーティングのときでさえ、質問しないんですよ。ミーティング終了後に残って個別に質問するので、通訳としては休み時間がなくて疲れちゃうんですけれども(笑)

(笑)

もうひとつは、日本企業に随行して海外投資家との個別面談を丸一日サポートするケースです。この時には日本企業の方といっしょに過ごしますので、海外投資家に対して皆様がどういうお気持ちを持たれているのかもよくわかっています。

さらにもうひとつ、海外投資家に随行して数社の日本企業を訪問する際の通訳も行っています。車に同乗して、いろいろな企業を1週間にわたって訪問します。1日5社くらいですね。
みなさん、気になるのはおそらくこの時の経験ですよね。海外投資家はどんな人たちなのか。何をしゃべっているのか。

海外投資家に準備する資料はたった2種類でOK

そうですね。その時の経験をもとに、
スムーズにIRミーティングを進めるためのアドバイスをいただけますか?

通訳を行う際は、事前に資料をいただいたり、打ち合わせを行ったりします。このとき、通訳者に信じられない量の資料が提供されるんですよ。分厚くて、宅急便の方も持てないような。でも、そんなに多量の資料は必要ありません。必要なのは、当期の決算発表と、中期経営計画の資料(日英両言語)くらいです。

投資家にとっても同様で、そんなに量があっても持ち帰れませんし、どこがポイントなのかわからないので困ってしまいます。
あと、細かい文字でA4に2枚のスライドが上下に配置されているような資料ですと、海外投資家も見る気がなくなっちゃいます。特に両面コピーでページ番号がない場合や、綴じ方の関係で上下が入れ替わったりしていると、話している箇所の確認だけでばたばたして大変です。見やすくしていただきたいですね。

資料は投資家の視点で用意するのが良い、ということですね。

資料関連で一番困るのは、日本語と英語で数字の単位が違うことです。1億円と書く場合、英語ならone hundred million yenですよね。でも、表や図を載せるとき、日本語と同じ書き方をしている企業さんもいらっしゃいます。中には「oku (億) yen」って書いているようなところも……(笑)

あとは、どういうわけか英語版の資料をスタイリッシュなデザインに変更にされていることがあります。体裁が違うんですよ。これ、海外投資家からすると不信感を持っちゃいます。「同じ資料なの?」って。色が違うだけでも混乱がありますよね。日本人が日本語の資料を見て「赤線部分が~」なんて言ってても、英語版の資料では青い線が引かれていたりします。通訳者からするとどう訳したらいいかわからなくなります。
些細なことも含めて、直してほしいところはたくさんありますよ(笑)

日本語と英語で、資料のバージョンが違うということですか?

バージョンは同じなんですよ。でも、よくあるのは日本語に書いてあることが一部なくなってたり、掲載箇所が違うことですね。箇条書きにされてる項目が少なかったり、図の置き場所が違ったり。これは英訳が面倒だったりとか、同じことの繰り返しだから省略しようという場合もあるかもしれません。

海外投資家が「なぜ?」と質問を繰り返すのは、企業の動機を理解したいから

実際のミーティングの場についてお話を聞かせてください。日本人には海外投資家を怖がる人も多いと思いますが、いかがですか?

そうですね。伝わりますよ。日本の皆様が怖がっているのは、部屋に入っていくときの雰囲気だけでわかるんですよね。投資家もその影響を受けてしまって、別人のようにカタくなってしまいます。

海外投資家が怖く見えてしまうのは日本人側にも原因はあると思いますよ。ああいう場所では日本人のみなさんが異常に緊張しているので、彼らもピリピリしちゃって。基本的にリラックスしたカジュアルな方々なんですけどね。

海外投資家は、むしろリラックスして臨みたいんでしょうか?

リラックスと言っても良いですし、腹を割って本音の話をしたいんだと思います。

かといって、尊大だったり、なれなれしい態度で話すのもいけません。
IRの案件ではないんですけど、大手の企業にいきなり海外まで呼ばれて通訳したことも。社内で英語のわかる方が通訳をされていたのですが、態度が悪い、と相手企業の方がお怒りになりました。「この合弁の話はなかったことにしてくれ」なんて言われ、急遽謝罪に……ということで呼び出されたんです。

難しいですよね。外国人だからって馴れ馴れしく、いきなり「Hey」なんて言ってはいけない。だからって怯えてもいけない。自然体で礼儀正しく、が良いですかね。そうしたらまず失敗は起きないと思います。普通の日本人でいればいいんです。

日本人が海外投資家を怖がる理由はなんでしょうか?

投資家が「なぜ?」とよく質問する、ということが理由のひとつかと思います。最初から最後まで「Why?」ですよ。「なぜこの数字に? なぜ?」って。

でもこれは「どうして達成できないの?」と非難してるわけじゃないんです。動機に興味があるんです。要因や背景を理解したいから聞いているんですよ。実際、彼らは責めてるわけじゃないって聞いてます。「本当の理由を知りたかったんだけど、通じたかな?」って言ってますよ。
でも、日本人はディフェンシブになっちゃうんですよね。時には「外国の方にはわからないと思うんですけど……」とか、「素人にはわからないと思うんですけど……」なんて答える方がいらっしゃいます。

海外投資家には伝えづらいことを言われるのですね。どのように訳すのですか?

失礼な言い方をされる場合、私もなんて訳そうか迷いますし、訳さないときもあります。でも、怖いのは話し方で通じちゃうときです。通訳していないのに理解しているんですよね。ばかにされた、って。

あるとき、投資家が質問をしたら企業の方がつぶやいたんですよ。

「そうきたか、どうせわかりもしないのに」

すごいこと言うなあ、なんて思っていた私に投資家がすぐに聞くんです。

「今なんて言った?」

って。
日本人の方は「訳さないでくださいよ」って言うんですけど、投資家は怒ってますし、訳すよう言うんです。怖いですよ。相手が外国人だからって何もわからないと思ってちゃいけませんよね。

海外投資家には製品の説明は不要! 興味があるのは……

日本企業は気にしているけれども、海外投資家はあまり気にしていないようなことはありますか?

あります。日本企業は自分たちの製品を詳しく説明したがるんですけど、海外投資家でそれを気にされるのは極わずかです。関心を示すのは理系でエンジニア出身の方くらいですね。

面談では細かい話は出てきません。それよりもっと大きな全体像が話題になります。この製品はこうなって……という話をすると、「それ、聞いてもわからないから、それによってどういう市場が生まれるのかだけ説明してもらえる?」と返事しますね。

あるゲーム制作会社が大きく成長したときの話なんですけど、投資家が「やったことがないのでゲームの説明は要りません」って言うんですよ。「説明は一切要らない、どうでもいい。関心があるのは、どういうお客さんがいて、どういう収益があがるのか。そこだけわかればいい」って。お会いした投資家みなさんそう仰います。

国内の機関投資家との違いかもしれませんね。日本企業の決算説明会を見ると、製品の内容について尋ねる投資家が多いんです。けっこう突っ込んだ質問も出ますよ。

それは意外ですね。私がお会いした中では1人だけでした。その方はエンジニア出身ということで、ショールームで盛り上がってましたけど……。

私の知人に、あるIR専門通訳者がいます。
その人に他の通訳者たちが「年中IRの通訳をしていたら準備だけで大変じゃない?」といったことがあるんです。その知人は「ぜんぜん関係ないよ。どこで儲けているか、お金の流れを把握しておけばOK。商品は関係ない。投資家は商品の名前やスペックなんて気にしてなくて、その商品がどういう形で利益を生むかだけを気にしている」と答えていました。実際、投資家からすごく人気のある通訳者でして、活躍していますね。

海外投資家に何かを伝えるには必ず結論から。長い前提説明が不信感を抱かせることも

やはり海外投資家への意識が高い通訳者が重宝されるんですね。他にはどのようなことを意識されるのですか?

あともう1人、投資家からたくさん指名されている通訳者もいましたね。

人気の秘訣を聞いてみたら、「通訳者としていいのかわからないけど……」と前置きして「YesかNoかを先に言うんです。普通の通訳は言った順番に言ったとおりに訳しますけど、海外投資家は結論を待てないから、全部きいてからまとめて話してます」と言っていました。

日本人はYesかNoで答えられる質問に対して「それじゃ、資料の〇ページを見てください」なんて答えたりします。こう答えると、海外投資家は「えっ!?」ってなりますよ。しかもそこに答えが書いてあるかと思えば、数年前の情報が書かれていたりして。

ずぅっと流れをさかのぼって話しますが、海外投資家は待ってられません。「数字を聞いているんだけど」と何度も質問するので通訳すると、企業の方は「わかってます、待ってください、いま説明しますから」なんて言いますよね。「あれはカルチャー的に無理」と人気の翻訳者は言ってました。

Yesという前提で話を聞くか、Noという前提で話を聞くかで受け取り方が変わるのでしょうね。

そうなんです。「それをお話しするには少し複雑になりますが背景から……」なんて前置きすれば彼らも待てるんですよ。それがないと無視されてるような気分にしてしまいます。不信感を抱かせますよね。何か言いにくいことがあるんじゃないかって。YesかNoかを伝える最後の段階になったら、投資家側はもうとっくに別のことに興味が移ってしまっています。

まとめ

『IR通訳者に聞く海外投資家の実像:ミーティングへの備え 編』は以上になります。
重要な部分をまとめます。

  • 海外投資家に向けた最適な資料準備 = 当期決算発表資料と中期経営計画 程度
  • 「なぜ?」を繰り返す海外投資家の真意 = 企業の動機を理解したい(非難する気持ちはない)
  • 海外投資家にとって重要性の低い情報 = 製品の詳細(興味があるのは製品によって生み出されるマーケット)
  • 人気通訳者が語る、説明におけるポイント = 結論(Yes or No)から伝える。伝えられない場合は前置きする。

なかなか見えてこない海外投資家の実像を掴む一助になれば幸いです。
本連載はあと2回続きます。次回は『ミーティング実践におけるポイント』です。

プライム企業必見!IR通訳者に聞く海外投資家の実像:面談時のポイント 編

 

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