2021年6月に規定が改正され、「場所の定めのない株主総会」、つまりバーチャルオンリー株主総会が可能になりました。
いまやリモートワークやウェブ会議といったオンラインワークはほとんど一般化しましたが、バーチャルオンリー株主総会がそこに加わるのも遠い将来のことではないかもしれません。
では、実際にオンラインで株主総会をやってみたらどうなるのか?
リアル開催との違いは?
準備の手間は? 安くなるのか?
デジタルデバイスを使いこなせない方にはどう配慮するのか?
IR担当者であれば、こうしたことが気になるのではないでしょうか。
こうした疑問点にこの記事はお答えします。
実際にバーチャルオンリーでの株主総会を実施したグリー社様にインタビューを行いましたので、開催をお考えの方はぜひ読んでみてください。
バーチャルオンリー株主総会、開催して良かったか、悪かったか? グリー社様の工夫は?
―本日はお時間いただきありがとうございます。まずは、バーチャルオンリー株主総会(※)を開催してみていかがでしたか?
※グリー社様の名称としては「メタバース株主総会」
現場の責任者としては非常に手ごたえがありました。
良かったか悪かったか、結論から言えば良かったと感じています。
社内外の反応もおおむね好評で、特に社外からは、完全にオンラインでいいのではないかとか、今回の株主総会はこれまでと違う印象でわかりやすかった、というご意見もいただきました。
今回は会場を用意しない完全オンラインでしたので、カメラプロンプターを使って議長をカメラ目線にするなど、Webの向こうの株主様にメッセージが伝わる工夫をしました。
他にも、当日の議決権行使の集計結果を即時発表しているのですが、集計にかかる5分から10分間は株主様をお待たせするので、今年のバーチャルオンリー株主総会(メタバース株主総会)の運営準備を録画した動画、つまりメイキング動画を流しました。
―私もオンデマンドで拝見しまして、メイキング動画は面白い試みと感じました。
バーチャルオンリー株主総会の違いは準備の減少と質問の質の変化
―リアル会場での開催とバーチャルオンリーでの開催の違いはどんなところでしょうか?
これについては、まずは背景からお話しさせてください。
グリーはIT企業ですので、ITをうまく利用することで株主様にとっても会社にとっても効率的な運営ができないか、ずっと検証しておりました。
2016年ごろから株主総会におけるIT活用を考え始め、2017年には360°カメラでオンデマンド配信を行っています。
株主総会を行うには、時間とコストをかけて準備する必要がありますが、株主総会は365日のうちの1日の数時間程度で終わってしまいます。これに対しもっとIT技術を取り入れて効率化し、さらに株主様との対話も効果的にできないかということをずっと考えていました。
この背景があって、2017年の360°オンデマンド動画の配信以降、IT化の施策を毎年取り入れてきました。2019年は国内初となる双方向参加型のハイブリッド開催を行いました。双方向参加型とは、オンラインで参加している株主様からのコメントを総会中に受け、それに役員が回答するという方式です。2020年はハイブリッド出席型で株主総会を実施しています。この流れで、今年のバーチャルオンリー株主総会(メタバース株主総会)の実施に至りました。
さて、リアル会場とバーチャルオンリーでの開催の違いというご質問についてお答えすると……。
違い① 運営準備の激減
まず運営準備については激減しました。
第一に、リアル開催用の会場を準備する必要がないということ。そして他にもひとつひとつの積み重ねが大きな影響を及ぼします。
例えば受付係、案内係、質疑応答時のマイク係等、会場内のスタッフ。会場自体がないため手配する必要がなくなります。
リアル開催では、株主様が駅から会場まで迷わず来られるようスタッフがサインボードを持って道に立っていますが、あのサインボードを作る必要もないですし、持って立っているスタッフも必要なくなります。
こういうところが全てなしで済みます。
会場がない、と言ってしまえばそれまでなんですが、去年までに、従来のリアル会場のみでの開催、出席型というリアルとオンラインのハイブリッド開催、さらに本年のバーチャルオンリーでの開催のすべてを実施したからこそ、バーチャルオンリーでの開催では、準備のための様々なコストが純減したと感じています。
バーチャルオンリーでの開催においては、リソース的に効率的であると感じますし、効果の面でお話しすると、リアル開催にリソースを投下する必要がなくなる分、バーチャルオンリーで出席する株主様に向けた準備にリソースを集中することができ、より株主様との対話を深めることができたということを会社として非常に大きく実感しています。
株主様の視点では、これまで東京の会場ひとつしか用意できなかったのですが、今回は場所を選ばず出席していただけたという結果もあります。全国各地から出席していただきました。
違い② 質問が整理されたことで、株主総会自体が洗練された
また、株主様の質問の質が変わったという点は大きな違いです。
オンラインで質問を受け付ける形になり、字数制限300文字、送信回数3回とさせていただいたことで、会議の目的に則しつつ、きちんと整理された質問をいただけるようになりました。
制限を設けた結果、送信ボタンを押すまでに株主様がご自身の発言を見直したり、質問事項を整理されたのだと思います。
リアル開催では、株主様が、発言しながらだんだんと熱くなられて、発言の冒頭と終盤でご質問の趣旨が全く異なる内容となり、株主様への回答を支援する事務局が慌ただしく対応するということが度々あります。
株主様が本来質問したかった内容をシンプルにお伝えいただけることで、会社としてもより丁寧に回答の準備ができ、議長や役員が答えることができました。
この結果、私の印象ですが、とても洗練された株主総会になったと感じています。
出席人数非公開? グリー社様の理念、”線”での対話とは
―出席人数はどれほどでしたか?
人数は公開していません。この理由をお話しさせてください。
グリーが目指している株主総会の形として、事前と事後のコミュニケーションの活用を考えています。
たとえば今年の招集通知をご覧ください。
これは、株主総会の開催前、当日、終了後の各フェーズにおいて株主様が実施できるアクションを整理し、網羅的に示したものです。招集通知の表紙をめくった直後に、見開きで掲載しています。見ていただくとお分かりいただけると思いますが、当日できることは、ほとんど事前に行っていただくことが可能です!
株主総会の対話、つまり株主様の権利として、重要なことは主に3点あると思います。情報の取得、質問をして回答を得ること、議決権の行使。
この3点、実はぜんぶ事前にしていただくことができるんです。
去年も事前質問の受付はしましたが、今年はさらに発展させ、事前質問に対する回答を事前に開示しました。
この事前対話で議案に対してご理解・ご納得いただけた株主様は事前行使を行っていただける可能性が高くなります。
このように、当日出席せずとも対話できる仕組みを作っているので、総会当日の出席者数だけをお伝えすると数字が独り歩きしてしまう可能性があり、人数は非公開とさせていただいています。
“点”ではなく”線”の対話を。質問の数にも効果が表出
『グリー株主総会Portal』という株主様専用サイトを用意し、当日のライブ配信視聴だけでなく、事前の開示情報の閲覧、事前質問の送信、事前質問への回答の確認ができる仕組みを用意しています。株主様がこの事前のコミュニケーションでご満足いただければ総会当日に出席しないということもあり得ます。実際に総会当日の質問数と比べ、事前質問は3倍近くありました。
また、株主総会終了後もオンデマンドで総会当日の様子を閲覧できるようにしてます。質疑応答もノーカットで公開しています。このように、株主総会当日という”点”ではなく、事前と事後を含めた株主総会プロセスという”線”で株主様と対話を行うための施策を複数取り入れています。
―ありがとうございます。考え深く驚きました。他の会社がどこまで考えられているか分かりませんが、この点、意識していただくよう情報発信していきたいと思います。
ぜひ合わせてお伝えしたいことがあります。みなさんが懸念されるバーチャルオンリーでの株主総会を開催する際の課題、つまりシステム障害についてです。
いろいろと障害対策はしていても、その可能性をゼロにすることは不可能です。
そういう意味では、事前と事後という”線”での対話は、株主総会当日のシステム障害のリスク軽減のひとつになると思っています。
バーチャルオンリー株主総会の費用感
―バーチャルオンリー株主総会とリアル開催を比べると、費用感はいかがですか?
具体的な金額は非常に難しいところです。
会場の費用、マイク係や案内係、あとは受付も不要ですので、このあたりは純減ですね。一方、当日の配信システム費用が増えることになります。
ちなみに、グリーにおいては冗長化を強化したことでシステム料が上昇した、ということはありません。基本的に株主総会専用のシステムですので、もともと冗長化は図られていました。
出席のしやすさでデジタルデバイドに配慮
―同じくバーチャルオンリー株主総会を開催した他の企業様ではテレフォンカンファレンスをご用意されたそうですが、グリー様の場合はいかがですか?
企業によっては電話に加えて視聴室という会場もご用意されたそうですね。
グリーの場合、電話や視聴室を設けてしまうと「IT技術を活用して効果的・効率的に」という方針に沿わなくなってしまいます。
リアル開催では、第二会場を用意するケースがよくあります。株主様が何人来場するかは、当日になってみないとわかりませんので、万が一想定より多くの来場者があった場合のために用意する会場です。私の経験ではこの第二会場はほとんど利用しませんが、このような仕組みを用意する場合、当日その場を担当するスタッフを配置し、運営ロジを整備しておく必要が生じます。そのこともあり、電話回線や視聴室の用意はしませんでした。
デジタルデバイドに対する配慮は、バーチャルオンリーで株主総会を開催する際の論点になると思います。
電話回線や視聴室はデジタルデバイドへの対処方法の一つにはなりますが、グリーはバーチャルオンリー株主総会(メタバース株式会社)への出席のハードルを下げることに予算を使っています。
そのためにアバターを使った説明会の案内動画を作ったり、招集通知をカラーでわかりやすくしたりと、簡単に使っていただけるよう工夫をしました。
―株主様の年齢層はいかがですか?
従前より、リアル会場では出席株主にアンケートをとっていたのですが、70代の方々が多かったです。
今回のバーチャルオンリーでの株主総会では、30代および40代の方が半分以上でした。50代、60代、70代の方も満遍なくご出席いただいていました。
分布はすごくなだらかでしたね。長文の質問で熱い思いを語ってくださった70代の方もいらっしゃいまして、年齢層の高い方が必ずしもデジタルデバイスを不得手とするとは限らないと思いました。
―たしかに他社様でもご高齢の方がいらっしゃることがありました。
改善点はなし! 改善ではなく「向上」できる点を模索
―議決権の集計に関してはどのようなサービスを利用されましたか?
自社で集計しました。
事前の議決権行使については株主名簿管理人の集計データを利用し、当日の議決権行使についてはグリー株主総会Portalの管理画面よりダウンロードしています。
両者を合算したうえ、事前と当日の双方で行使された方の議決権が重複しないように処理し、最終結果として得られた賛成率を総会中に発表しました。
―実際に開催してみて改善が必要と感じたところはありましたか?
実は、「悪かった部分を良くする」という意味での改善というとあまり思いつかないのです。もちろん、さらに株主様との対話を深化させるためにできるところは何かなということは考え続けていきます。
他にも、役員への回答支援をオンライン化することも考えられます。
今年、一部の役員は議長のいる配信会場でZoomにて出席していましたが、Zoomのチャット機能を使って回答支援すると株主様に丸見えになってしまいます。
この点、他のオンライン会議サービスを併用することで向上できないかなと思っています。
―ありがとうございました。
まとめ
グリー社様のバーチャルオンリー株主総会について、インタビューの形式でお伝えしました。
バーチャルオンリー株主総会の開催を検討している企業にとって、参考になる情報が多数あったと思います。
バーチャルオンリー株主総会の利点をまとめてみると……。
- ハイブリッド出席型バーチャル株主総会と比較して、運営準備が激減
- 会議に則して整理された質問が増え、株主総会自体が洗練
- 当日のみという”点”ではなく事前と事後を含めた”線”のコミュニケーションにすることで、株主との対話を深化
- 費用感の算出は難しいが、リソースを株主との対話に集中可能
このように多数の利点が存在します。
まだまだ取り組みの例が少ないバーチャルオンリー株主総会ですが、メリットがあるならば挑戦する価値もあるはずです。
株主総会に検討してみてはいかがでしょうか。