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【経験談】監査等委員会設置会社における任意の委員会設置について

【経験談】監査等委員会設置会社における任意の委員会設置について

筆者は上場会社でガバナンス業務に携わっています。
所属企業では機関設計として監査等委員会設置会社を採用しており、2019年に任意の委員会である指名委員会、報酬委員会の設置を行いました。

筆者は2018年の中頃より、実務担当者として任意の委員会設置に向けた制度設計、社内規定等の作成に携わりました。その経験を基に、監査等委員会設置会社における任意の委員会設置における注意点や論点について本稿に取り纏めました。任意の委員会設置を検討している方々の参考になれば幸いです。

本稿を執筆している2021年1月現在においては、法定・任意を問わず指名委員会、報酬委員会を設置する企業が東証一部上場企業の多数派になっています(東証2021年8月2日「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」参照)。一方で2021年6月に改訂された東証コーポレートガバナンス・コードでは「サステナビリティを巡る取り組み」にポイントを置いた改正がなされ、また金融庁策定の「投資家と企業の対話ガイドライン」ではサステナビリティに関する委員会の設置について言及がされていました。

こういった状況を踏まえ、2018年~19年当時に筆者が任意の委員会の設置業務に携わった経験をまとめることが、今後、サステナビリティ委員会等の新たな任意の委員会設置に向けた参考にもなるであろうと考え、本稿を執筆しました。

なお、本稿は筆者の私見であり、筆者の所属する上場会社の考えを代表するものではございません。

【2015年~2018年】指名・報酬に係る任意の委員会の設置における動き

2015年6月に制定された東証コーポレートガバナンス・コードでは、その補充原則4-10①の中で監査役会設置会社、監査等委員会設置会社に対し指名・報酬に係る任意の委員会の設置について言及がされていました。しかしながら2016年5月時点では東証上場会社のうち任意の諮問委員会を設置している会社は14.4%(商事法務No2104「監査等委員会設置会社における任意の指名委員会・報酬委員会等の位置づけと運用」下山祐樹)と、すぐに任意の委員会設置が浸透したわけではありませんでした。

その後、2018年6月に東証コーポレートガバナンス・コードが改訂された際、指名・報酬に係る任意の委員会を設置することについて強く踏み込んだ表現が用いられたことがきっかけとなり、急速にその設置が進むことになりました。

筆者の所属企業でも、こういったコーポレートガバナンスを巡る意識の高まりを受け、2018年より任意の委員会設置に向けた準備作業を開始し、2019年にその設置に至りました。

設置における主要な論点、注意点

設置に向けた準備作業にあたり情報収集を進めた際の主要な検討事項とその解決策については以下の通りです。

検討事項(1)社内規程

監査等委員会設置会社における任意の委員会は、会社法で定められた機関ではないので、その内容や権限について、しっかりと定義づけしておくことが不可欠です。

→解決策として、権限や活動内容を定めた「委員会運営規則」を社内規定に新設しました。設置した任意の委員会が形骸化せず、将来にわたってガバナンス上、有効な組織として存続することを担保するための規則です。

検討事項(2)指名委員会、報酬委員会の構成について

→東証コーポレートガバナンス・コードにおいて、任意の委員会の設置を求める理由が取締役会の機能の独立性・客観性を強化するためであったことから、社外取締役が過半数を占める組織の設置が望ましいと考えられましたので、そのように組織しました。

なお、実際に指名委員会、報酬委員会の設置検討を始めた当時、所属企業の社外取締役は2名であり、任意の委員会で社外取締役が過半数を占めるためには、任意の委員会を3名以内に絞る必要がありました。これは設置検討にあたり非常にネックとなりました。なぜならば取締役3名で構成される委員会では、指名および報酬の実務について把握しているメンバーの参加が難しく実効的な審議が難しいのではないかという懸念があったためです。

結果、この議論及び同時期にガバナンス上の論点となっていた社外取締役比率に関する議論の両方を踏まえ、社外取締役を1名増員する方向で調整が行われ、指名委員会、報酬委員会は、社外取締役3名、社内取締役2名の計5名で構成されることになりました。

指名委員会、報酬委員会の構成における 最近の潮流

2018年当時の任意の委員会構成に関するベストプラクティスの議論においては、「社外取締役が過半数」もしくは「社外取締役、社内取締役が同数で社外取締役が委員会の議長を務める」というのが主流であったと記憶しています。これを踏まえ、任意の委員会設置に合わせて新設した「委員会運営規則」では委員会の構成について”社外取締役が半数以上”と規定しました。

しかし、2021年1 月現在においては、より独立性を高めるべきという論調がより強く「独立社外取締役が過半数を占めるべき」「CEOを参加させるべきではない」といった議論も聞かれます。

実際に筆者の所属企業でも、現時点では各委員会とも独立社外取締役が過半数を占める構成としているものの、独立性の維持、向上に向けた制度の再整備が必要な段階にきていると認識しています。

検討事項(3)指名委員会、報酬委員会の目的・権限の定義づけ

➡「委員会運営規則」において各委員会の目的を”取締役会の諮問に応じて、審議し取締役会へ答申を行う”とし、諮問する項目についても、株主総会における取締役の選任案、解任に係る事項、株主総会における報酬議案など具体的に定義しました。

また、会社法で定められた機関でない各委員会の答申結果が実質的に効力を発揮するよう同規則に”取締役会は委員会の答申を尊重しなければならない”旨を記載しました。

指名委員会、報酬委員会の目的・権限の定義づけにおける最近の潮流

2021年現在においては、2021年6月の東証コーポレートガバナンス・コード改訂に際し補充原則4-10①においてプライム市場上場会社には任意の委員会の権限・役割を開示すべきである旨が盛り込まれ、任意の指名委員会、報酬委員会でもより強い権限を持たせるような取り組みが求められると考えられます。プライム市場に上場する場合、今後、任意の委員会が審議・答申をするだけでなく、決定権をもつことも検討する必要があると思料します。

各委員会設置後の運営

所属企業では各委員会の運営を補助するため各委員会の事務局を人事部門に設けており、実務上はこの事務局と人事担当役員が各委員会の議案作成、招集事務、議事録作成を行っています。

各委員会の議長は代表取締役社長が務め、各議案の内容を社外取締役へ説明する役目も担っています。

開催回数は、最低年1回は各委員会を開催することを「委員会運営規則」で規定しています。なお、実務上は2020年12月の会社法改正で取締役の個人別の報酬等の決定方針を定めることが義務付けられたことに代表されるように、取締役の指名および報酬に関するガバナンス強化に対応するため各委員会とも年3~4回以上開催されている状況です。

② 各委員会設置後の運営における最近の潮流

金融庁策定の「投資家と企業の対話ガイドライン」では、指名委員会のCEO後継者計画への関与が強く求められていますので、 今後は選任プロセスの見直しやCEOに求められる人物像など選任方針の見直しについて、指名委員会が主体的に意見を取りまとめることができるような運営上の工夫が求められると考えられます。その場合、事務局には人事部門だけでなくガバナンスを担当する部門の関与なども検討の余地があると思料します。

任意の委員会であるサステナビリティ委員会への示唆

サステナビリティ委員会をはじめとする、別の新しい任意の委員会を設置する場合に、検討が必要と考えるポイントは次の通りです。

(1)独立性・メンバー構成

任意の委員会の設置目的は、その目的とする課題に対する取締役会以上に独立性・客観性の高い議論にあります。そのため、社外取締役が多数を占めかつ独立社外取締役が過半数を占めることは必須の要素であると考えています。一方で社内の実用や課題の共有という面を踏まえると、目的とする課題に精通した社内取締役の参加は不可欠であると思われます。

さらに参加する社外取締役においても、目的とする課題への高い知見が求められることから、特にサステナビリティ委員会においては、サステナビリティに関する知見をもつ社外取締役を、必要に応じて新たに選任しないことには実質的な議論が行えないであろうと思料します。

(2)権限

独立性の高い委員会がガバナンス上果たす役割、期待される役割は年々高まっています。そのような状況のなか今後、社外取締役を中心に議論を深めるために任意の委員会を設置する際は、その目的とする課題に対する施策の決定権を持たせるなど、より権限を強める工夫が必要になると考えます。

(3)事務局・運営

任意の委員会と取締役会全体を効率よく、かつ実効的に運営するためには、社外取締役のニーズを的確に把握するとともに、代表取締役のリーダーシップ発揮の補助をする取締役会事務局の設置が不可欠になってくるのではないかと思料します。今後、取締役会事務局は議案配布や議事録作成といった事務作業に留まらず、ガバナンス向上に必要な施策を社内外の各取締役へ提案していくぐらいの機能が必要であると考えます。

まとめ

あくまで筆者の考えや所属企業での実施内容ではありますが、任意の委員会(指名委員会、報酬委員会、サステナビリティ委員会)設置に関する注意点や検討事項は以下の通りです。

設置における主な検討事項と解決策

  • 社内規定 → 任意の委員会の権限や活動内容を社内規定で定める
  • 指名委員会、報酬委員会の構成 → 社外取締役が過半数を占めるよう組織
  • 指名委員会、報酬委員会の目的や権限の定義づけ → 各委員会の目的、諮問項目を規則に定義し、その答申結果が効力を発揮できるよう規則を整備

設置後の運営

  • 各委員会の事務局を人事部門に設置(議案作成、招集事務、議事録作成を実施)
  • 年に最低1回は開催することを規定。実務上は年に3~4回開催。
  • ガバナンス担当部門の関与も検討の余地あり

任意の委員会であるサステナビリティ委員会への示唆

  • 社外取締役が多数を占めかつ独立社外取締役が過半数を占めることは必須
  • 目的とする課題に精通した社内取締役の参加が必須
  • ガバナンス上期待される役割を果たせるよう強い権限を持たせる必要がある
  • 取締役会事務局はガバナンス向上に必要な施策を提案できるくらいの機能が必要

この内容が正解というわけではありませんが、任意の委員会設置を検討している方々の参考になれば幸いです。

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