「SDGsのためには○○に取り組まなければ」と考えていませんか?
なじみのなかった方々にとって、SDGsとは新しい概念なのだと思います。不安も大きいでしょうし、何から取り組めば良いのかわからないという方も多いでしょう。
ですが、SDGsを理解して取り組んでいくことで、新たなビジネスチャンスをいちはやく掴むことが可能です。
そのためには発想の転換が必要です。SDGsとは特定のことに取り組まなければいけないものではありません。これまでそう思ってきたのであれば、あなたの会社には大きな金脈が眠っているかもしれませんよ。
前回の「ゼロエミッション」に続き、自動車業界を例にお伝えしていきます。
著者:樋口直也
輸送機器企業で電動化や低炭素エネルギーシステムの研究開発に従事。 編集:今泉陸 ストックウェザー株式会社にてIR支援やSDGs関連の事業に従事。 |
「ところで」と立ち止まり、発想の転換にチャレンジ
第3回では、「ゼロエミッション」という言葉の認識にズレがある、というお話をしました。
電気自動車は排気ガスを出さないため、エミッション(排出物)はゼロになる……かと思いきや、タイヤやブレーキパッドから出るカスをエミッションと捉えられると、それはもう「ゼロ」とは言えません。
もちろん排出量を減少させることは良い取り組みですので、認識ズレのないよう正しく広報をしていこう、ということをお伝えしました。
ところで、排ガスの処理技術はどのようなレベルにまで進歩しているのでしょうか。
電気の使用だけが排出量削減に役立つわけではない!
日本車の排ガス処理レベルは非常に高いです。
極超低排出ガス車ですと、汚れた空気の中を走ると排気ガスは元の空気よりもきれいになるレベルです。つまり、極超低排出ガス車であれば、排気そのものの環境破壊は限りなく少なくできるのです。
だとすると、環境保全の取り組みは電気自動車で行わなくてもいい、という発想の転換ができるようになります。
走行時の排気が問題ではないのなら、燃料を生み出すときにかかる環境への負担だけが問題なのです。
一般的に、電気自動車に使われるモータやバッテリーは高価です。わざわざそんなものを使わなくとも、カーボンフリーの燃料で走ればいいのではないか。
つまりノーカーボンビークル(NCV)です。
この発想の転換を利用することで、SDGsへの新たな取り組みを見出すことができるのではないでしょうか。
これは自動車業界に限った話ではありません。
あなたの会社では、「二酸化炭素排出量を減らすなら○○をしないと」だとか、「自社はもともと排出をしない事業だからアピールしにくい」と考えていませんか?
そんな企業にとって、発想の転換はブレイクスルーになり得ると思います。
他社例;ポルシェは再合成ガソリン、アウディは再合成ガスを利用。そしてトヨタは……
最近の報道で、あのポルシェがカーボンフリーの燃料を提供してエンジンで走らせるとのニュースがありました。
参考:ポルシェがガソリンエンジン車を持続可能なものにする合成燃料を研究中
風力発電で水素を作り、回収したCO2と合成した再合成ガソリン(e-fuel)を、2026年ごろに提供するというのです。
まさしくノーカーボンビークルです。これならば、もっと大きな船舶や飛行機もカーボンフリーになります。
アウディでも、すでに10年以上前から、自然力発電で作ったグリーン水素とCO2を再合成したガスを作り、そのガスでクルマを走らせる実証実験を行っていました。
自然力発電を利用して走る電気自動車(EV)や水素自動車(FCV)、再合成したグリーン燃料で走るノーカーボンビークル。
これらすべて脱炭素に寄与する自動車開発です。電気自動車の開発だけが脱炭素活動ではありません。
トヨタに至っては、水素をそのまま燃やして動力とする水素エンジン搭載車の開発を進行中。速度に限って言えば、すでに他の車両に匹敵するようなレベルに到達しています。
豊田社長は以前より「カーボンニュートラルの敵は内燃機関ではなく炭素(CO2)」と訴えている。近年、カーボンニュートラルの実現にはピュア電動車両こそ唯一絶対の正解と捉える風潮が強い。しかしそうではなく、CO2を効率よく削減するには電動はもちろん、ハイブリッドや内燃機関を含めた様々な選択肢を揃え、地域や用途ごとに最適な方法を選択するのがベストのはずだ……というのがその主旨。ひいては、それが日本で自動車産業に関わる人々の雇用を守り、日本の基幹産業を守ることにもつながると繰り返し主張している。
その“選択肢”のひとつが燃やしても水しか発生しない究極のクリーンエネルギー・水素というわけ。
この水素の利用もまた、電気に限らない脱炭素活動です。「SDGsのために○○をやらなきゃ」と考える必要は全くありません。
2050年に向けた脱炭素への取り組みには、さまざまな方法がもっとあります。
例えば、CO2排出のうち、4割を占めているのが発電です。この発電の方法に関して、太陽光や風力発電だけでなく、水素やアンモニアを燃料にする実証が始まっています。
CO2排出量で勝負すると、日本は競争力が低い可能性も
とにかく、低炭素な企業活動はガバナンスとなり、炭素の垂れ流しはビジネスのリスクとなる時代になりました。
イギリスの電力は1kWhあたりのCO2排出量が過去最低の39ℊを記録したと公表しています。同時期の日本の電力のCO2排出量は400g以上です。
ということは、日本の企業と海外の企業が同じ製品を同じ機械で製造していても、CO2排出量で比べられてしまうと日本企業のリスクになる可能性が出てきています。
第3回でお話しした過激な環境保護NGOの方は、「ゼロエミッションでもなんでも構わないが、とっとと脱炭素を進めろ」と言っていたのだろうと思います。たしかにあの場は、脱炭素のCOP21/CMP11の会場だったのです。
SDGsは手段ではなく目標である
SDGsは手段ではなく目標です。「SDGsのためには○○に取り組まなければ」と考える必要はありません。
「達成するために自社では何ができるか?」という自問を重ねましょう。
そうすれば、おのずと自社の得意分野を活用する発想に繋がります。そこまでたどり着けば、新たな事業のチャンスまであと一歩です。
オイルショックを知っている我々の世代にはよく耳にしたサウジアラビアのヤマニ元石油相が2021年にお亡くなりになりました。彼は2000年に「石器時代は石不足になったわけでもないのに終わった」と述べ、石油時代の終焉を予告しました。あの時点で、石油の20世紀が終わっていたのでしょう。
カーボンは存在し続けますが、エネルギーとして使わなくてもいい時代へのバトンタッチです。あなたの会社ではどんなことができるでしょうか?