IRコミュニティの運営会社では、IR担当者同士の交流を深めていただくべく、定期的に交流会を開催しています。
2021年12月には、10社前後のIR担当者と、スパークス・アセット・マネジメント所属の清水裕様にご出席いただき、発行体と機関投資家とでSDGsに関する意見の交換を行っていただきました。
本記事ではその様子をまとめてお伝えいたします。この記事を読めば、日ごろ抱えているSDGsへの疑問に対し、解決の糸口を掴めるかもしれません。
本記事でお伝えするのは、以下の質問とそれへの回答です。
- SDGs17の目標の内、投資の観点で関心の高い目標と低い目標
- ESGに係る非財務情報の開示に関し、機関投資家は何を判断しているのでしょうか?
- 小型株であっても、SDGsやESGに関して考慮しますか?
- SFDRへの対応方法
2021年12月 SDGs意見交換会の様子
質問1;SDGs17の目標の内、投資の観点で関心の高い目標と低い目標を教えてください。
清水様:
どの項目が一番重要かは、企業が発信している情報から投資家側で判断しています(企業によっては17の目標項目への貢献を網羅的に発信している場合もあるため)。
重要項目の判断基準としてはビジネスとの関係性が挙げられます。SDGsに合わせてビジネスモデルをアップデートしているようであれば、より高く評価しています。
そもそも企業としてどう目標項目を設定すれば良いのか? という話としては、日本と海外を比較するところから出発すると良いかもしれません。
Sustainable Development Reportによれば、日本ではSDG5(ジェンダー)、SDG13(気候変動対策)、SDG14(水)、SDG15(陸)、SDG17(パートナーシップ)などの点数が低く、国内課題が多いということが推測されますので国内ビジネスならここに重点を置くのは説明しやすいと思います。
逆にグローバル展開しているのであれば、日本では進んでいる項目、グローバルに何らかの知見を提供できるかもしれない項目を選ぶ考え方もあると思います。
SDG4(教育)、SDG9(産業と技術革新の基盤)、SDG16(平和)などは評価が高いので、ここで貢献されるのはひとつのやり方ではないかと思います。
質問2;近年ESGに係る非財務情報の開示に対する要請が高まっていますが、機関投資家はそれらの何を見て、何を判断しているのでしょうか?
清水様:
テクニカルな見方はしておらず、「事業活動が世の役に立っていて、最終的に利益になっているのか?」という全体的な視点で見ています。
例えば、世の役に立つ活動であっても会社の利益にならないのであれば、投資家はプラス評価を下しません。
また、企業が成長したときの影響も考えます。環境に負荷がかかるビジネスであれば、事業が大きくなるほど環境にはマイナスの影響があるだろう、というような考え方です。
別の見方をすると、ESGに対してこうした投資家判断をすることで、発展の示唆を企業に与えているとも言えます。例えばダイバーシティに関して進んでいない場合、モノカルチャーの組織はもろいのではないかと考えるわけですが、こうした判断が企業のリスク意識の向上繋がるんじゃないかと思います。
なお、企業の情報をどうチェックするのか、という点に関しては様々です。企業が発表している情報をチェックすることもあれば、ESG評価会社の開示情報を見ることもあります。
質問者:
現在はいわば”ESGバブル”のような状態になっていると感じます。何度も調査会社からアンケートが送られてくる中、少し情報開示を欠かしてしまえば悪者にされるような感覚です。一方、ただ単にESGをやっている、と記載するだけで全てクリア、というような状態になっていることにも違和感がありましたので、質問させていただきました。
清水様:
実際、企業の負担が多いことは問題視されています。過去に何度もフレームワークが開発されていますが、現在は統合の傾向にありますので、いずれはすっきりとして開示しやすくなるのではないかと思います。
ひとつひとつの回答にもリソースが必要ですから、私はアンケートで評価したいとはあまり思っていません。むしろ企業の経営陣がこうした問題を重要と認識し、ビジネスに取り組んでいるかということのほうが重要と考えています。データしか見ていない、という投資家も多いとは思いますが、このような考え方の投資家もまた多いと思います。
質問3;小型株であっても、SDGsやESGに関して考慮されますか?
清水様:
私は企業規模に関係なく考慮します。事業が世のためになっていて、企業の発展に繋がっているかどうか、ということをストーリーやシナリオとして見ています。
一方テクニカルな話として、どの企業もポジティブな面とネガティブな面があると思いますが、そのどちらが大きいかということを評価します。環境負荷の非常に大きい会社であっても、地域社会への貢献のように、ポジティブな面もあるはずです。
ただし投資家ですので、将来の発展も見越して評価します。炭素排出量抑制の世界的意識の高まりを考慮しますと、やはり環境負荷の大きな会社の場合はネガティブ面が大きくなってしまいます。そのため、今現在のポジティブ面・ネガティブ面のバランスだけではなく、将来を見越したポジティブな活動を考えているかどうか、という観点で見させていただいています。
質問者:
弊社は環境負荷の大きい事業を営んでいますので、経営陣含めて不安を感じつつSDGsに取り組んでいます。しかし弊社のサイズで投資家が考慮するのか? という点が疑問でして、いまのお話をいただけて心強かったです。
現在いろいろな取り組みをしようとしているのですが、なかなか結果がでていません。半年や一年で結果が出なさそうでも考慮してくださる、ということでしょうか?
清水様:
「アクションをとる」という意思決定から実際にアクションが出てくるまで間があるということは評価者側も把握していますので、どちらかといえばポリシーをちゃんと出しているかどうか、モニタリングする体制はできているか、ということが注目されています。
現在は、実際に取り組むかどうかは別として、宣言を出しているか否かで評価される時代だと思います。一方ヨーロッパなどでは多くの企業がすでにポリシーを出していることもあって、次はアウトカム、つまりちゃんと成果になっているかどうかを評価しましょうという動きに入りつつあります。
日本はヨーロッパと比較して数年遅れのペースですので、いまはまずポリシーを出して、社外の人たちと話す中で期待値を調整し、実際に取り組む際にアウトカムを出せる体制を同時並行的に整えていけば、数年後にはその成果が見えてくると思います。
質問4;サステナビリティサイトの情報発信やコミュニケーションについて、実際にそれらの取り組みを推進していく部署や人材はどのような形が望ましいと思われるでしょうか。
清水様:
何をおいても経営トップのコミットメントが必要です。一方、現場の意識は高いもののトップがそうではない、という企業が多いのも事実だと思います。その場合はトップの意識変革に注力するのがやはり先決でしょう。
人材に関しては、適材適所がありますので、社会貢献や課題解決に関心の高い方をアサインするのが一番良いと思います。
NPOを始めとした、いわゆるビジネスとは少し違うフィールドの方々とのパートナーシップについても考えると、必ずしもビジネス上のネゴシエーションで成果を出せる人が向いているというわけではないと思います。それよりは穏やかな性格の人の方がサステナビリティ活動は向いているのではないでしょうか。
質問者:
弊社の場合は経営トップのコミットメントはあるものの、人材リソースもあまりありませんし、どうするべきか示したガイドラインもありませんので、右往左往しています。その場合、経営企画やIRが旗を振ると思いますが、メーカーの場合はやはり現場こそが実際に動く部署になると思いますので、そのあたりのバランスで悩んでいました。
清水様:
確かに日本企業は現場をすごく大事にしていると思いますが、一方で開示を行う人的リソースが手薄だなと感じていますので、外部からの募集であれ社内からのアサインであれ、それなりの人材をあてていだくのが良いと思います。
日本では時価総額数兆円の規模の企業でもIR部門は一人や二人ということもあります。そういう企業の担当者には、「もっと人的リソースを増やした方が良い」という投資家としての意見をお話しし、それを経営陣にあげて下さい、とお伝えしたりします。このように、投資家からの意見を用いて進言するのも良いのではないかと思います。
質問5;SFDRへどう対応すればよいでしょうか?
清水様:
現在、EUタクソノミーというEUの分類枠組みがあり、その中の六つの分類基準のひとつである気候変動に関して、開示が求められるようになっています。SFDRはEUタクソノミーの概念に基づく規則で、Sustainable Finance Disclosure Regulationのことを言います。
実際のところ、SFDRに関しては遅れています。なかなかまとまらず、ヨーロッパでも混乱しているようです。
そのため、「いまどう対応するか?」という質問に答えるのは困難です。もしも投資家から対応を求められているのであれば、逆に質問して「何をすれば良いのでしょうか?」と聞いてみるのが良いかもしれません。
SFDRに限らず、カーボン排出量について自社で把握しておくとか、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)について情報収集しておくのが良いのではないかと思います。
最後に;ご参加希望の場合はご連絡をどうぞ
スパークス・アセット・マネジメントの清水様にご参加いただいたSDGs意見交換会は今回が2回目です。実際に参加された企業は1日あたり10社前後ですが、参加希望をいただいた企業は毎回70社近くいらっしゃいます。
開催する際は参加企業の方々のご質問に可能な限り応えられるよう、また企業同士でも情報交換ができるよう最大限配慮しております。
今後も開催してまいりますので、ぜひご参加ください。基本的には参加費をいただいておりません。
なお、ご参加希望の聴取はIRコミュニティ運営が所持しているメーリングリストに基づいて行っております。もしこれまでに連絡をもらったことがない方で、参加してみたいとお考えの場合は、企業名、お名前、連絡先をご記載の上、お問い合わせフォームよりご連絡ください。
※セキュリティの関係でお問い合わせフォームからメールを送れない場合、運営会社ホームページをご覧いただき、電話等でご連絡いただければ対応いたします。
最後に、スパークス・アセット・マネジメント 清水様のnoteを掲載します。
第1回のSDGs意見交換会開催時の記事ですが、機関投資家視点での本交流会を知ることが可能です。ぜひご覧ください。