SDGs、CSR、ESG。
いずれも地球環境に関わるものですが、こう思ったことがある人は多いのではないしょうか?
「結局、SDGs、CSR、ESGって、それぞれなにが違うの?」
「成り立ちや内容に違いがあるのはわかったけど、IRの実務上ではそれぞれどう考えればいい?」
いずれも英語の頭文字を略したものですし、内容に似たところがあるので、実務上どう使い分ければいいのか、いまいちはっきりさせ辛いのではないでしょうか。
何より困るのが、これらは区別しにくい概念でありながら、その実態を知らなければIRの担当者にとって致命的であるということです。
なぜなら、投資家はこれらをはっきりと理解し評価しているから。
IRの業務上、投資家の評価基準を知らなければ、その本分を全うすることはできないでしょう。
この記事は、SDGs、CSR、ESGの区別がつかないという人に向けて執筆されています。
読んでいただくことで、区別をつけられるようになることはもちろん、投資家とのミーティングの際にどういう軸で話せばいいのか、理解できるようになるでしょう。
「この会社のIR担当者とは話がかみ合わないな」と思われることがなくなり、より大きなフィードバックがあなたの会社にもたらされるはずです。
SDGs、CSR、ESGの区別一覧表:まずは「SDGsとCSR」「ESG」のふたつに分けて考えよう
区別がつけづらいものは、表にして理解するのが一番です。
まずは下記の表をご覧ください。
見ていただきたいのが「特徴」の項目。
ESGとは投資家が投資判断を下す際の考え方です。そしてESG投資という視点で見れば、SDGsとCSRは投資判断の材料のひとつとなります。
つまり、SDGsとCSRに取り組むことが、ESGへの対応にもつながっていく、ということです。
ここまでで、「SDGsとCSR」「ESG」のふたつに分類できました。
次項では、SDGsとCSRを分けて考えてみましょう。
SDGsとCSRの区別:コミットするのはステークホルダーか? 地球と人類か?
SDGsとCSRには確かに共通項が多いです。企業が主体になることで、環境保全活動がよく例に挙げられます。
企業にとってわかりやすく区別をつけるならば、「CSR活動は本質的に収益性と関係のないもの」であり、「SDGs活動は収益性を求めても構わないもの(※必ずしも収益性を求めるわけではない)」という表現をすることができます。
CSRと聞いて思い浮かぶ取り組みはなんでしょうか?
植林活動や地域清掃活動、社員の健康促進などが思い浮かぶかもしれませんね。
こうした活動は、その企業が関わるステークホルダー(消費者、地域社会、社員など)のために行うものです。
また、会社の事業として利益を求める類のものでもありません。
一方のSDGsではどうでしょうか。例としてトヨタ自動車を見てみましょう。
出典:トヨタイムズ
トヨタ自動車は2021年12月14日に電気自動車戦略の説明会を行い、この戦略をトヨタイムズにてSDGsのひとつに掲げました。
スピーチでは、2030年までに30種類の電気自動車を展開して年間販売台数350万台を目指すと発表されました。この取り組みが実現すれば、世界全体に大きく寄与するレベルのCO2削減となるだけでなく、トヨタ自動車は電気自動車ブランドとしての地位を確立します。これによりさらなる利益を獲得することでしょう。
自社の事業を用いて、地球の課題を解決し、収益も見込む、という構図になっています。
注意点は、SDGsそのものは「持続可能でよりよい世界を目指す国際目標」であり、収益性は関係ないということです。ですが収益性を求めてはいけないものではありませんし、何より収益性も求めた活動であれば、「SDGsの達成に寄与できるうえに事業の収益性まで見込まれている」という評価を投資家からもらえるでしょう。
このように、SDGsとCSRの違いを判断する上でわかりやすいのが、「自社の事業領域で取り組めて、最終的に利益になるか否か」、という点です。
自動車メーカーが再生可能エネルギーの利用を推進していることも、飲食店が割り箸の使用を止めることも、どちらもSDGs活動です。そして、どちらも企業が事業を通じて取り組んでいける内容となっています。
植林活動や地域清掃も、SDGsの活動として広報することは可能です。しかし、それが事業と直接の関係がない場合、投資家へのアピールとしては弱いかもしれません。
SDGsへの取り組みを掲げているのなら、やはり事業との関連性を評価する投資家は多いと思います。大々的に押し出すのが地域清掃活動では、評価する側の人間ががっかりする可能性が高いでしょう。事業を通じて取り組める活動を筆頭にアピールしてみてください。
もちろん、清掃や植林が事業に関係しているのであれば話は別です。事業を通じたSDGs活動として掲げていくと良いでしょう。
ESG投資とは投資家の判断基準
さて、ここからはESG、SDGs、CSRの詳細をひとつずつ見ていきましょう。
まずはESG。Environment(環境)、Social(社会)、 Governance(ガバナンス)の略で、この3つの観点で投資先を決めよう、という考え方です。
ESG投資はあくまで投資判断の考え方ですから、主体となるのは企業ではなく投資家。
中でも、長期保有をする 機関投資家 が重要視することが多いです。
投資家の判断基準であるならば、IR担当者は把握しておかなければなりません。SDGsやCSRの活動を推進するなら、彼らの基準に沿わなければいけませんから。
とはいうものの、実は統一的な評価指標はありません。
各機関がそれぞれの基準に基づき評価しており、すべての投資家に対して確定的に効果のある対策はない、というのが現状です。
この対策については後述します。
SDGsとは全人類の協力をもって達成するべき目標
SDGsの日本語名は「持続可能な開発目標」。これは世界全体が抱えている問題を解決するために存在しています。
温室効果ガスの排出、貧困、人種差別、飢餓、ジェンダー問題。
こうした課題を解決し、地球を次の世代につないでいくことが最終的な目標です。
世界の問題を解決するにあたり、企業の協力は不可欠です。いくら環境問題を論じても、企業が二酸化炭素の排出量を減らさないことには何も変わりません。
ですが、利益が出続けるのであれば、企業が二酸化炭素の排出量を気にする理由はないように思えますよね。
SDGsに取り組まないということは、企業にとってどういうことなのでしょうか?
それは、ビジネスで大きな失敗を起こす可能性を抱え続ける、ということです。
極端ではありますが、自動車業界を例に挙げましょう。
2030年の前半にガソリン車の販売が禁止されるというニュースが2020年末に報道されました。
ガソリン車以外の開発を進めない自動車メーカーはどうなるでしょうか?
売上がなくなり、そのまま事業が終了してしまうはずです。
もちろんこの例は極端です。しかし、販売禁止の宣言まではされていなくとも、これと似たことは他の業界でも起こっています。
例えばカフェなどではプラスチック製ストローの紙製化が進んでいます。これは消費者の購買意識の変化に応えた対策です。(博報堂の「生活者のサステナブル購買行動調査」によれば、消費者の8割以上が「生産・製造時に環境に負荷をかけない商品を買う」という購買意向を持っています)
一般消費者にとって、いまや「環境への関心」は当たり前の時代になりました。「環境に優しい製品だから購入する」という購買行動がすでに生まれており、ストローの紙製化はそれに対応しているのです。
環境への関心に基づいた購買行動に対応できない企業は、ビジネスの成功を逃しかねません。
SDGsへの対応は、企業が自社の成長のために行うべきことです。
自社の事業で何ができるか、一度見直してみる必要があるでしょう。
そして、ビジネスの変化に敏感な企業をこそ、投資家は評価します。
これまでと同様のものを同様に作っているだけの企業と、世界全体の問題に対処すると同時にビジネスチャンスを掴みに行く企業。
「成長性がある」と判断されるのはどちらか、一目瞭然です。
なお、SDGsについて個別に知りたい場合、こちらもお読みください。
CSRとは組織活動を行うための責任
CSR(企業の社会的責任)とは、SDGsのように企業が主体となるものです。
SDGsは「企業(を含む全人類)が主体となって、特定の課題を解決できるよう組織活動を行う」ものですが、
CSRは、「企業が組織活動を行うにあたって果たさなければならない、社会的な責任」です。
先述の通り、SDGsにおいては「特定の課題を解決するために自社で技術を開発し、製品を作り、世に出していく」という考え方で活動できます。
一方のCSRにおいては、「自社で技術を開発し、製品を作り、世に出していくなら、そのために果たさなければならない責任がある」と考えて事業を進めていきます。
昆虫食製品の製造を例に挙げましょう。昆虫食はその製造条件から複数のSDGs達成に寄与するものとして注目されています。
あくまでイメージですが、SDGsとCSRの区分けについては、この画像をご覧ください。
SDGs:昆虫食製品製造はSDGs達成に有効なので、事業として取り組む。
CSR:昆虫食製品の製造にあたりスペック偽装や不当労働を行わない。
このように、SDGsとCSRは考え方としては異なります。
例えば、製品を売り出すのにスペックを偽って表示してはいけません。安く売るために労働者の給料を不当に安くすることも許されません。そして、売れる製品だからといって環境を破壊してまで製造していいわけでもありません。
企業は利益を追求する組織です。ですが、消費者や労働者、そして環境をないがしろにしていいわけではありません。利益を追求するに際する責任が存在します。
CSR=企業の社会的責任とは、このような当たり前とも言える責任のことなのです。
企業がこのような責任を果たす相手は、その企業が関わる全ての人や組織、つまりステークホルダーとなります。
例として、ヤクルト本社は地域社会に貢献するCSR活動を掲載しています。
こうした活動がヤクルト本社にとって収益性があるかどうかはともかく、収益性よりも地域社会への貢献を目的としているように見えますね。
ESGへの対応方法と、SDGsおよびCSRへの対応方法
ここまででESG、SDGs、CSRの違いはご理解いただけたでしょうか?
ここからは、それぞれどのように対策をしていけばいいのか、例を交えてお伝えしていきます。
ESG対応は、「投資家がESG評価を行いやすくする」ように
先述した通り、ESG投資とは投資家が判断をするための投資手法であり、判断基準です。そのため、「投資家がESGの評価を行いやすくする」ことが有効かと思います。
その際に最初に参考にしたいのは、日本取引所グループが紹介しているESG情報開示枠組みの紹介のページでしょう。
自社のESG情報発信に合った枠組みを選択できるよう、理解を深めることができます。
ESG情報を開示する際には、既存の情報開示の枠組みを活用することが考えられますが、その際には、各枠組みの違いや特徴を理解して、自社の開示の目的や対象に合った枠組みを活用することが重要です。このページでは、国内外で広く利用されている情報開示の枠組みを紹介します。
ESG情報開示枠組みの紹介 より抜粋
枠組みの数や情報量は非常に多いものの、まずはこちらを理解するのが望ましいと思います。
枠組みを理解し、何を活用するか考えながら、他社のESG情報開示を調べてみるのが良いのではないでしょうか。
ここでは、伊藤忠商事の例を紹介します。
伊藤忠商事では各種の活動を「E:環境」「S:社会」「G:ガバナンス」に分類した上で、「ESGレポート」と題してホームページに掲載しています。
活動のページを見てみると、「SDGs目標」の項目が設けられ、SDGsのどの課題に即した活動なのか、一目でわかるようになっていました。
「ESGへの対応」としてE、S、Gそれぞれに活動を分類し、
さらにその活動をSDGsの課題に振り分けることで、投資家がESGに関する判断を下しやすいようになっています。
上記のように、ESGの対応とは「いま行っている活動をどう発信するか」が肝となります。
それでもアピールできることが見つからない場合は、新たな取り組みが必要ということになります。
伊藤忠商事は、こうしたESG関連の活動を一冊の資料にまとめており、投資家に配慮した発信を続けています。
余談ですが、伊藤忠商事はGomezの2021年IRサイトランキングにて2位にランクインしており、非常にレベルの高いIRサイトとして有名です。
他社の事例を参考にする場合は、IRサイトランキング上位の企業や、ランキング内の同業他社をチェックしてみるのが良いかもしれません。
SDGsとCSRへの対応は、自社の活動の棚卸から
SDGsおよびCSRに関する対応としておすすめなのは、最初に「自社のそれらしい活動を棚卸しする」ことです。
なぜなら、「特に意識していなかった活動であっても、SDGsやCSRとしてアピールできるものだった」というケースがあり得るからです。
あなたの会社では、会社の制度として男性社員の育児休業取得を推奨してはいませんか?
その活動は、SDGsの3番目、「すべての人に健康と福祉を」の達成を助けています。
また、自社の社員の労働環境を守るという意味で、CSRへの取り組みと考えることもできます。
実は、男性社員が育児休業を取得しやすい環境に社内を改善する、という活動は小林住宅がSDGsへの取り組みとして実践しています。
出典:小林住宅
事業との関連性という意味では、先に挙げたトヨタ自動車の自動運転技術のような、劇的なアピールではないかもしれません。
ですが、確実にSDGsやCSRの達成に寄与する行動です。
このように、まずは自社でやっている活動について棚卸してみましょう。
その際は、どの活動がどう関係するのか、SDGsについてしっかり把握しておく必要があります。
もちろん、自社の事業がSDGsの達成に寄与するのであれば、それに勝る活動はありません。
可能であれば、今後の技術開発や商品展開について、SDGs達成の助けになれるような方向性を打ち出せると良いですね。
他社SDGsの事例を検索することで、新たな活動方針が見える可能性も
こちらのページでは、SDGsの活動を検索することができます。
目標を選択して検索してみたら、他社の活動がリストアップされますので、同業他社がどうしているのか調べるのに役に立ちますよ。
もちろん、自社のビジョンと反するような活動に取り組む必要はありませんが、無理なく取り入れられるなら真似してみるのも良いかもしれません。
まとめ
以上、ESG、SDGs、CSRの違いについて、IRの視点で説明しました。
重要な点を繰り返します。
それぞれの違いについて。
・ESGの主体は投資家。SDGs、CSRの主体は企業。
・ESGとは、投資家の判断基準
・SDGs活動とは、事業を通じて地球全体の課題を解決する取り組み
・CSRとは、事業を行うにあたって果たすべき社会的責任
それぞれの対応について。
・ESG対策は投資家への発信方法をわかりやすくすることから着手(他社事例を参考にするのも手)
・SDGs、CSRを発信するなら、自社のそれらしい活動を棚卸しするところから着手
必ず効果のある対策は存在しませんが、参考になる情報は存在します。
一番簡単に手を付けられる対策として、自社でSDGsやCSR活動らしきことを行っていないか、探してみてください。
ちなみに、SDGsやESGへの意識をもっと高めたいという方はこちらの記事もぜひお読みください。
ESG投資のファンドマネージャー、スパークス・アセット・マネジメント所属の清水裕様と、各社のIR担当者をお呼びして開催した交流会の様子です。
上場企業のリアルな悩みに機関投資家がストレートに回答する、非常に貴重な場となりました。
今後も開催していきますので、参加希望の方はお気軽にお問い合わせフォームよりご連絡ください。
参加費は無料です。