SDGsに取り組まないことは、企業にとってリスクになるのでしょうか?
経営者やIR担当者なら、こうした疑問を抱いたことがあるかもしれません。この問いの答えは「まぎれもなくリスクになる」です。
取り組まないことがリスクになるなんて、不思議に思うことでしょう。その理由は、京都議定書とパリ協定の違いにあります。
SDGsの理念とは何か、どのようなマインドで活動すれば良いのか。
パリ協定が採択されたCOP21の雰囲気を肌で感じた樋口より、経験ベースでお伝えしていきます。
意識を変えれば、ビジネスのチャンスが見えてくるでしょう。変えなければ、リスクすら見えません。
著者:樋口直也
輸送機器企業で電動化や低炭素エネルギーシステムの研究開発に従事。 編集:今泉陸 ストックウェザー株式会社にてIR支援やSDGs関連の事業に従事。 |
SDGsに取り組まないことがなぜリスクになるのか? 採択の瞬間を振り返る
2015年11月27日に、私はフランス・パリのシャルル・ド・ゴール空港に降り立ちました。
30日からはじまるCOP21/CMP11(気候変動枠組条約第21回締約国会議/京都議定書第11回締約国会議)の企業展示ブースで脱低炭素関連技術のプレゼンテーションを行うためです。
2週間前にあの痛ましいパリ同時多発テロが起き、多くの企業が欧州への出張を取りやめ、旅行客の渡航自粛もあり、成田初パリ便の機内は閑散としており、客室乗務員の方が乗客より多い状況でした。
いつもならばクリスマスに向かってより賑やかになるはずのパリ市内に入っても、歩いている人も少なく、店も多くが閉まっており、街は暗かったです。コロナ禍のロックダウン時もこうだったのでしょう。
ただ、パリ在住の友人は「いつもは挨拶もしない隣人が挨拶をするようになり、とてもうれしいし、今が一番安全だ。」と言っていたり、「外のテラスに座ろう—Je suis en terrasse」といって積極的に街にでるなど、次のテロに恐れずに立ち向かうフランス人の矜持も感じられました。
厳戒態勢の会場で出逢ったSDGs
そして、会場であるパリ郊外のル・ブルジュ空港を訪れると、厳戒態勢であり、関係者は事前に登録が必要で、一般の方々は入場できない状況でしたが、会議関係者・NGO・報道陣でパリ市内の様子とは全く違う熱気であふれていました。
開催初日には首脳級会合があり、オバマ大統領や習国家主席、安倍首相はじめ多くの国家元首が訪れたため、各国の専用機が駐機場を埋めていました。
我々のいた企業展示ブースと会議場はちょっと離れていたのですが、シャトルバスは必ず会議場を通るため、何度か国連の各機関やNGOのブースも観ることができました。そのなかには、この年の秋に採択されたSDGsのプレゼンテーションもありました。これが、SDGsとの出逢いでした。
その時の印象は、「なんだか普遍的な目標ばかりだけど、クリーンエネルギーも入っているからいいか」程度でした。まさか、SDGsが世界中のビジネス界を動かすことになるとは全く思いませんでした。
画像は United Nations Framework Convention on Climate Changeより
COP21/CMP11は12月11日までの予定でしたが、議論が長引き、採択は翌日12日に持ち越されました。合意の発表は興奮に包まれました。参加していた外務省や経産省の方々からは「合意は無理かと思った」とのことでした。
とにかく、1997年12月に京都で開催されたCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)で採択された京都議定書がパリ協定にバトンタッチした瞬間です。
SDGsに取り組まないことがリスクになる理由は、評価者が世間であるから
京都議定書は「2020年までに先進国に対し削減目標達成を義務化」しましたが、パリ協定は「2020年以降世界中の参加国が削減目標を提出」することにとどめたことが、世界中の合意につながったようです。
しかし、これによって、世界(および企業)は決められた義務を果たすルールベースではなく、いかに自ら行動するかを個々に任されるプリンシプルベースに変わりました。その行動を評価するのは、ESGのように投資家だけではなく、消費者や報道等の様々なステークホルダーになりました。
SDGsも義務ではありません。しかし、評価するのは自社ではなくステークホルダーです。やらなければ、もしくはやっていることをPRしなければ、世間から見放されるリスクがあることは注意してください。
さて、次回記事では「サステイナブルの本当の意味」についてお話しします。
国連のダイレクターと直接お話をする機会があり、その際に受けた大きな認識の違いについてお伝えしていきますので、ぜひお読みください。