こんにちは。東証一部企業にてIR担当をしているKです。
「売買数が少ないので株価のボラティリティが高い。」、「機関投資家の比率を高めたいのでもっと流動性を高めたい。」などIRにおける課題は様々あるかと思います。
私も流動性を高めるためにどういった手を打っていくべきかどうか日々頭を悩ませております。
今回は、上場会社のステージ別にどこをターゲットとしIRをすべきか簡単に解説いたします。
目的・手段が混在していませんか?
まだ時価総額が大きくない上場会社において、流動性の向上や時価総額の増加を目的に機関投資家向けのIRを強化したいというケースはあるかと思います。経営層からも、株価対策、安定株主増加を目的に、機関投資家に株を保有してもらうための取り組みをしてほしいとIR担当者に指示がくるということもあるでしょう。
そういった場合に、どういった手段で実現すればよいでしょうか。
機関投資家とのミーティングを増やせばよいでしょうか?あるいは、海外IRを実施すればよいでしょうか?
実はそういった手段が間違っているケースもあります。
市場別で見た場合の株主構成は?
前回のコラム「海外IRは必要なのか」の冒頭で、日本の上場会社における株主構成は、信託銀行約20%、外国人約30%、個人約15%と書きました。
実はこの数字は、東証における約3,800社の平均です。この中には東証一部上場企業からマザーズ上場企業まで様々含まれますのでどの会社でもこれに近いかというとそうではありません。
これを市場別にしたデータは以下の通りです。
(%)
信託銀行 | 証券会社 | 事業法人等 | 外国法人等 | 個人・
その他 |
|
第一部 | 23.1 | 2.5 | 20.0 | 30.8 | 15.9 |
第二部 | 3.6 | 1.8 | 42.5 | 8.1 | 37.4 |
マザーズ | 5.4 | 3.2 | 21.3 | 20.1 | 49.1 |
JASDAQ | 4.5 | 1.6 | 37.8 | 15.9 | 36.9 |
市場ごとにばらつきがあるのが良く分かります。
このうち、国内の機関投資家の保有分は信託銀行、海外の機関投資家に関しては外国法人等に含まれると考えられます。
つまり、東証一部銘柄では株主構成の約54%が機関投資家保有分となっています。
一方で、それ以外の市場における機関投資家保有分は、東証二部が約12%、マザーズが約26%、 JASDAQが約20%と東証一部よりも低くなっています。そのため、一部銘柄以外においては全体に占める個人株主の構成比率が高くなっております。
また、これはそれぞれの市場における平均数値です。第二部、マザーズ、JASDAQの中でも時価総額の高い、低いはありますので時価総額別でみるとより違いが鮮明になると考えられます。
では、ここで改めて質問です。
「あなたの会社において流動性、時価総額を高めるためにはまずは何に取り組むべきでしょうか?」
機関投資家にたくさんコンタクトをとれば会ってもらい株を買ってもらえるのか、それは自社の置かれる状況において大きく異なります。
時価総額や流動性が低いと機関投資家の投資対象から外れます。そのため、機関投資家の投資対象とならない水準の上場会社においては、機関投資家の投資対象となりうる水準まで時価総額や流動性を引き上げるためのIR活動が必要となります。
機関投資家の売買がない会社が流動性・時価総額を高める方法
時価総額が300億円にも満たない場合、機関投資家の投資対象となることは少ないと考えられます。そういった上場会社においては、優先すべきは個人投資家向けのIRとなります。したがって、個人投資家の認知を獲得し売買に繋げる、そのためにどうするかが活動の中心になると考えます。
こういったことを経営層、IR担当で共有できていればよいのですが、共有できていない場合、認識にギャップが生じIR活動にも支障が出る可能性もあります。そのため、経営層にも個人投資家向けIR活動を積極的にしないと流動性や時価総額も上がりづらいということについてしっかり理解してもらう必要があると言えます。
そのうえで、実際の取り組みをしていくということになります。
私自身はそういった上場会社でのIR活動はしたことがないのですが、担当するのであれば、自社の概要、特徴、競争優位性、成長ストーリーなどを分かりやすくまとめ、SNS、自社IRサイト、個人投資家向け説明会などあらゆる手段で個人投資家向けに発信するというようなことを実践したいと考えています。
この辺は、中小型銘柄のIR担当者や中小型銘柄をメインに活動するセルサイドアナリストから今度話を聞いてみてどういった活動をしたほうがよいのかコラムにも書きたいと思います。
国内外機関投資家との対話、売買ができている会社が流動性・時価総額を高める方法
次に国内外機関投資家の投資対象となっている上場会社です。
個人投資家だけでなく機関投資家もターゲットにできるため様々なIR活動が可能になります。国内機関投資家への直接のアプローチ、前回のコラムに書きました「海外IR」、セルサイドアナリストとのコミュニケーション増加(カバー数増加)などできることは増えます。
ただし、ガバナンス体制強化や非財務情報などのESG開示要件、英文開示強化など求められる開示水準はより高まりますのでその対応が必要となります。
また、こういった上場会社においても、引き続き個人投資家向けIRにも取り組むことでより一層の流動性の向上も期待できると考えております。
流動性低下の原因は把握できているか?
時価総額などステージに応じて取りうる手段については簡単に書きましたが、そもそも流動性が上がらない、あるいは下がっている要因はなんでしょうか?実際に施策実施に当たってはそういったことを把握する必要があります。
流動性が下がっている場合、
- 投資対象としての自社の魅力度
- 情報開示の内容やその充実度
- IRの活動量
この3点のいずれかが下がっている(あるいは欠けている)ケースが多いのではないでしょうか。
これらをきちんと分析し優先順位をつけて施策に取り組むことが重要となります。
流動性が回復した事例紹介
私が過去経験した事例の一つとして、自社における成長鈍化により、資本市場から投資対象としての魅力が低下したと判断され、株価や流動性が低下したことがあります。
また、同時に大きな設備投資が必要だったタイミングでもあり、その投資回収がきちんとできるのか疑問視されていました。
そのため、投資後の将来の成長ストーリーをきちんと資料にまとめるとともに、これまでコンタクトのあった機関投資家への発信、証券会社等にアレンジを依頼しての新規投資家との面談増加、個人投資家向け説明会の実施などに取り組みました。
その結果、共感いただける投資家においては新たに株主になっていただき、流動性についてもいくぶん回復しました。個々の施策の効果検証というのは難しいものの、こういった活動を通じた効果は一定程度あったものと考えております。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回は上場会社ごとのターゲティングについてというテーマで記載しました。
同じIR活動でも自社の置かれている状況ごとに実際の活動内容は大きく異なります。急激に成長している会社にいらっしゃる方や転職して異なる会社のIR担当になる場合などは同じIRでもこうも違うのかと感じる場面はあるのではと推察します。
とはいえ、自社の魅力をターゲットに分かりやすく発信する重要性はどの会社に在籍しても同じだと思います。今年もお互い自社の課題に対し取り組んでいきましょう!
なお、今回はあまり具体的な施策について詳細には説明できませんでした。次回以降それぞれについても触れたいと思います。
皆様にとって少しでも参考になりましたら幸いです。ご意見、ご質問等ございましたらぜひコメントにください。最後まで読んでいただきありがとうございました。