■難しい!IR担当という立場
IRをご担当されている皆さんはどの部署に所属されていますか?
IR機能として独立した部署、財務、経営企画、広報、総務…部署や立場も様々かと思います。
財務部であれば決算短信をはじめとする開示資料をすべて作っている、という担当者や、広報部であればPR業務も兼任しているなど、そもそもIRの仕事は業務の範囲や線引きも企業によって異なるという特殊な事情があります。これは企業の業態やIRへの取り組み姿勢・方針が、IRの業務に大きく反映されるためです。
IR担当者同士で話をしても「そんなことまで担当しているの?!」となることも多々あるほどで、一般にも浸透しているとは言いづらいのが現状です。
そのため、担当者にとってIRには自社の企業価値向上という大きなミッションがあるにも関わらず、何をしているかわからないといった立ち位置になりやすく、社内での理解が得られにくいという悩みが尽きないのです。
IR部門が社内で理解を得るためには~当社のケース~
そのような状況を、どのように改善していけば良いのか、当社の場合を一例としてご紹介します。
まず当社は、代表がIRに最も理解があり、私が入社した頃にはちょうどIRの強化が必要と考えていました。
しかし、社内には代表以外にIRの重要性やそもそもの業務内容を理解している人間も少なく、収益部隊でもなく効果測定も難しい領域にコストを割く必要性があるのか、業績さえ良ければ評価はついてくるのでは、といった意見も多かったようです。
IR活動においては、データの提供をはじめ、他部署に協力を依頼する機会も多くなりますので、仕事が増えるという意味でも、いい顔はされていなかったかもしれません。
そのような中、当社ではまず社内の理解を得るために、経営陣に継続的なIR活動の報告を始めました。決算説明会をはじめとする各種イベントスケジュール、投資家とのミーティングについて、実施回数や意見・質問の共有、市場や他社動向等、当社で行っているIR活動やそれによる投資家からのフィードバックを資料にして見える化をしました。
最も経営陣からの反響があったのは、投資家からの意見・質問と他社動向
とりわけ、社内で反響が大きかった項目が投資家からの意見・質問や他社動向です。
経営陣は、自分たちの意思決定がどう影響し、どう見られているのか、株価だけでなく、実際の投資家の声が見えることに意義を感じたのでしょう。他社の状況とも比較することによって、自分たちの立ち位置も明確になります。このような視点が今後の経営にも活かされることで、まさにIR、投資家との対話の効果が得られたことになります。
さらに活動報告は定期的に行うことや、投資家との面談の際には、(可能なタイミングで良いので)役員にオブザーバーとして同席してもらうこと、また、IRイベントや各種セミナーの開催案内をすること等を継続し、当社ではIR活動に対する経営陣の理解がこれまでより得られやすくなりました。
その上で、実務上の連携を取るために、社内での協力体制を構築する工夫も行いました。具体的には、関連部署に対して、
- 先方が協力しやすいやり方を徹底(早めの依頼、IR部門の意図とスケジュールの共有)
- 日頃のコミュニケーションを丁寧に
上記2点を実践しました。
リモートワークで社内でもメール等でのやりとりが増えがちですが、文面に気を付けたり、出社した際には「この間の〇〇は助かりました、ありがとうございました。」と一声かけるなど。皆さんももう実践されているかもしれないごく基本的なことですが、このようなちょっとした気遣いが日々の業務を円滑に進める一助になるので、いま一度見直してみるのもいいかもしれません。
トップからの理解を得るためには
ここまで当社の事例をご紹介しましたが、では、トップがIRへの理解がない場合はどうしたらいいのでしょうか。
これも、投資家の意見の見える化や直接対話が重要だと考えています。とある企業では、トップが海外投資家とのIRミーティングに参加したことをきっかけに、IR活動に目覚めたという事例もあるようです。
自社がどう評価されているのか、投資家がどういう視点で見ているのか、自社内評価とのギャップが浮き彫りになったことが大きかったと言います。
また、当社の代表がIRに積極的なのも、IRミーティング以外に投資家と直接対話する機会が多々あるからだと考えています。経営者は日常的に様々な決断を迫られる分、やはりフィードバックを欲しているのかもしれません。スケジュール調整が難しければ、まずはIRミーティングの内容を資料化したものに目を通してもらうのも一つかと思います。
専門部署だとIR活動がやりやすい
そしてトップや社内からの理解を得られたら、IRの専任者、できれば独立部署を置くことをおすすめします。
兼任では業務が片手間になりがちです。特に、これからIR活動を頑張ろうと思っている担当者は、定型業務をこなすだけではなく、これまでのIR活動の反省・振り返りを通じて業務のブラッシュアップをしていかなければなりません。
業務の見直し作業や新しい施策の立案には大きな労力が必要となりますので、自分の業務に集中できる環境に身を置くのは一つのやり方です。もちろん、体制については担当者の一存ではどうにもならないことですし、専門部署として切り離さないことも、業務を横断的に行いやすくなるというメリットもあるので、参考までにして頂ければ幸いです。
トップとも密に関わりを持つことも重要
また、IRは企業と投資家の橋渡しとして適切に機能することが求められることから、トップともなるべく積極的に関わるようにすることも重要です。株主・投資家に自社のメッセージを正しく伝えるためにも、トップの考え方と資料等に齟齬がないか常に確認すること、そして投資家からのメッセージはいち早くトップに伝えること。
IR協議会の2021年「IR活動の実態調査」においては、以下のような結果が公表されています。
質問:経営トップの関与の成果 | 大企業のうち、Yesと回答した割合 | 全企業のうち、Yesと回答した割合 |
「投資家等との対話で得た知見を役員などと共有し議論するようになった」 | 82.8% | 55.6% |
「株主・投資家への説明責任を自覚し、開示や対話が積極的になった」 | 67.7% | 50.3% |
「投資家との対話を活用しIRや経営の改善に乗り出すようになった」 | 60.2% | 45.0% |
引用:IR活動の実態調査 – 2021年, IR協議会
調査では、経営トップのIRへの関与が企業経営に概ねプラスの影響が表れているとのことでした。
社風にもよるとは思いますが、トップというと、我々担当者からすれば雲の上の存在のようでなかなか関わりづらいかと思います。しかし、IR担当者として、投資家との橋渡しの役割を担うためにも、恐れずに関わる機会を持ちに行きましょう。
まとめ
IRという職種自体が比較的新しく、企業によって求められるものが様々な分、担当者のみなさんはそれぞれ社内での苦労が多いかと思います。
しかし、IR活動とは本来、企業と資本市場とのギャップを解消し、市場からの正当な評価を得ることですので、社内に自発的に働きかけることも仕事の一つです。
IR活動の報告や投資家との面談への参加要請等、こちらの業務を積極的に発信することで、経営陣に自社の市場からの評価・要請を伝えるだけでなく、IRという存在自体をアピールし、活動内容をクリアなものにすることが周囲の安心感にも繋がります。
担当者ベースでできることは限られていますが、社内の理解を得られれば、今の業務に人を巻き込んでより活動の幅を持たせることができるはずです。そのためにも、投資家だけでなく、社内とのコミュニケーションも上手くこなしていきましょう。